シルバーと別れ、ゴールドとクリスはキキョウ方面のバスに乗り込んでいた。
あの時のシルバーの表情はきっと忘れられない… また一緒に遊びたいわ、そう思い返しながら。

彼の本当の想いもかいま見ることが出来た。
本当にシルバーはブルーさんを頼りにしていたのだろう。それ故に他のことには何事にも鈍感となり、不器用となってしまって…
普通の子どもなら必ず体感しているはずの周りからの不断の愛情というものに飢えてしまっていたのかも。
母親に愛されて幸せに育った自分では想像も出来ない状況で育ったからだろう。
同情なんてシルバーもブルーさんもされたくないだろうし、それが優しさだなんて自分でも思わない。 …でも、ヤナギ老人が一概に“悪”だったとは思えない。
シルバーの手前では言えなかった。彼にとっては何処までもヤナギ老人は“悪”でしかなかったのだろうし、世論でもそう評価されているのだろうが…
勧善懲悪なんて好きじゃない。 
…彼は本当に、純粋すぎたのだと思う。ポケモンが死んでしまったことを自分のせいだと思い、罪を一身に背負って…その上での狂気。 
並の人間では出来ないことだろう。その純粋すぎる想いが結果、人を傷つけてしまうことになってしまったけど。
でも――――

「私ね、最近不思議に思うの」
「あ?」
眠そうに窓の外を見ていたゴールドが窓の縁にひじをつきながら、隣のクリスの方を振り向く。
「ブルーさんとシルバーの話を聞いてね、…もし、もしヤナギ老人は野望が達成されていたら…ブルーさんたちを、どうするつもりだったのかなって」
「どうするって…お前」
「ヤナギ老人は過去に帰るつもりだったんでしょ、そしてこっちにはもう戻ってこないつもりだったって…ゴールド言ってたじゃない。だったら、残されたマスクドチルドレンは…」
そのまま開放するつもりだったんじゃないだろうか。それとも、……
「…バカヤロ。そんなん考えたって仕方ねえだろ」
「…そう、ね」
どれだけ考えてももう答えを言う人はいない。

ごと、ごと。…畦道を進み出したのだろう、バスは二人の物々しい会話など知らず、ごつごつとした岩の上をバランスを崩さぬよう慎重に走り出す。
その規則正しい音の中、クリスはふと思い出した。…そういえば、ゴールドは最後までヤナギ老人と一緒にいたのだった。
彼があの光の中消えたのか、そもそもあの中で何が起きたのか―――何も聞かされてなかったな。
しかし、それもまた聞いても仕方のないことのように思えた。
聞いたとしても、ヤナギ老人がしたことが無罪となるわけでも、彼の考えていたことが明らかになるわけでもない―――他人がどう憶測するにせよ、結局事実は彼自身以外
誰にも解りはしないのだから―――ましてや、ヤナギ老人が帰ってくるわけでもない。
結果、私たちはこうして帰って来られた。今はまだ傷を残すジョウトもジョウトの人々も、いつかは癒えて事件のことすら忘れてしまう日も来る…
そういうものなのかもしれないわね。

がたん、と一回大きな岩を踏み大きく揺れたバスに気をとられ、クリスの考えごとも頭から消えていった。


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