r a u  e r e i : 6


もしかしたらと思っていたが、やはりそうだった。レッドの家を覗くと空だったので、次にグリーンの家を覗く。ナナミに教えてもらい裏庭にまわってみると―――
やはりというか、何というか。 レッドとグリーンが自分の手持ちたちと共にポケモンバトルの特訓にあけくれている最中だった。
こんな朝早くからやってるのね。どれだけバトル馬鹿なのかしら?…そう、心の中で笑いながら。

そんな二人を言葉巧みに休憩を誘い、家の中へ入れてもらう。
先程掲示板で知った“タマムシで新しい店のオープン”を二人に報告し、二人に着替えを促す(「女の子が来てるのにそんな色気のないシャツはやめてくれない?」)
ナナミがお茶を出してくれたので、二人が戻る間ブルーは一人椅子に座っていた。

(…そうだ♪)
新しい店も気になるし、今日は暇だし。どうせなら…、とギアを出しある番号を押す。2,3回の呼出音の後、もしもし、と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おはよ、シルバー!久しぶりね。元気だった?」
ギアに改良を加え、自分のパソコンにつなげるだけで相手の顔が見れるようにした。その画面の中には、見慣れた弟の顔―――
ちゃんと起きてたのね。少し眠そうだけど珍しいわ…彼はちょっと朝に弱い。
「おはようねえさん、久しぶり。…オレは全然変わりはないよ」
「ん、それは良かったわ。そう、タマムシに新しいお店がオープンしたの♪これからこっちに来れない?一緒に買い物に行きましょうよ」
当然、彼の返事は“応”だと思っていた。彼が自分の誘いを断ったことはないからだ。しかし、シルバーは少し眉をひそめ、困ったような表情を浮かべた。
「?シルバー?」
「…ごめんねえさん、これからアイツらと…出かけるんだ」
「え?」
「…ゴールドとクリス。一緒に遊びにいこうとしつこく誘ってきて」
ゴールドとクリスといえば、あの時の―――。自分たちと共に闘ってくれた彼らだ。
「まぁ…あの子たちがシルバーを?良かったじゃない!」
「でもどうしてもっていうなら断るよ」
「駄目よシルバー、友達は大事になさい。…それじゃあね、帰ってきたらまた電話して頂戴」

シルバーが返事をする前にブルーはギアを切っていた。プツン、と元の灰色に戻ったギア画面を、ブルーはしばらく見つめる。
「ブルー、誰に電話してたんだ?」
着替えをすませたレッドがひょこりと姿を見せる。 その後ろにはグリーンもついていた。
「…シルバーよ。タマムシの新しい店に一緒に行こうと思って」
「へぇ…で、どうだって?シルバー何時来るって?」
“来るのか?”ではなく、“「何時」来るのか?”…彼もまた、ブルーと同じようにシルバーが来ることを前提に話をしていた。
「…駄目よ。フラれちゃったわ」
「え?」
そのレッドの意外そうな表情を見て、周りにとっての“シルバーの位置”を再確認したようでブルーは何処か笑えた。
「あーあ、このアタシがフラれるなんて初めてよ。きっとシルバー、将来女の子を泣かすような悪い男になるわ」
「?はぁ?」
「…ねえレッド、グリーン。姉って気難しいものよね」
「え?」
「いつも姉にべったりだった孤独な弟―――彼を思ってくれる友達が出来ますようにって心から願っていたのに。いざ出来ると、心の何処かに喜べない感情もあるの」
「ブルー」
「勿論あの子と縁がきれるとかそんなことを心配してるんじゃないのよ。ただ…無心にアタシを慕ってくれたあの子が、少しづつ離れていくのが―――
あの子の世界が広がっていくのがきっと寂しいのだわ」

自分の心にある矛盾―――アタシもまだまだ青いわ、とブルーが後ろ手を組んで軽く笑った。

「…そういうものなのかもしれないな」
珍しく、グリーンがブルーの言葉に頷く。 彼もまた、何処か思いあたる節があるのだろう。
「うーん…オレは独りっ子だからグリーンやブルーの気持ちはわかんないけど。そんなもんなんじゃないか、きっと」

それは誰にでもある感情なのかもしれない。兄弟や親友に恋人が出来たり、それが例え祝うべきことであったりしても―――
人は心の何処かで、暗い感情を抱えているのだ。
「ブルーはシルバーがすごく好きなんだろ?だから余計そーなんだよ。身近なほど心中穏やかじゃないっていうか…オレもグリーンやブルーがそうなったらそう思うかもなぁ」
「…アラ、アンタがそんなことを語るなんて意外ね、鈍感王?」
「??何だよそれ?」
グリーンはブルーとレッドの会話を見てられないとでも言わんばかりに視線を空に向けていた。
「でも…そうね、アタシももっと広くならなきゃいけないわ…もう終わったんだから」
二人きりで頑張らなければならない時間はもう無くなった。冷たい空間で身を寄せ合う必要はなく、暖かい所にいることを許されたのだから。
そして新しく見つけた自分の居場所には…温かく自分を迎えてくれる人たちがいて。

「…うん、何だか話してすっきりしたわ。…よし、アンタたち付き合いなさい」
「へ?」
「さっきから何を聞いてたの?タマムシの新しい店に行くのよ。早くして、先着順で記念品も配るそうだし」
「おいおい、オレ今からまた修業をやろうと思ってたのに!」
「こーんなに可愛い女の子がデートに誘っているのよ、男ならニの返事を返しなさい」
「どうせ荷物持ちだろうが…」
「アラ、グリーンは流石察しがいいわねv」
彼女に逆らいでもしたら、それこそどうなるかわからない。
二人の哀れな男たちは、高い背丈をブルーよりも低くさせて彼女の後ろに付き従った。

(でもシルバー?約束したわよね)
あなたにどれだけ友達が出来ようとも、アタシとどれだけ離れていようとも…二人で過ごした時間は確かにそこにあったのだから。
何事にも変え難い時間だった。辛かったけれど、あなたと共に在れてアタシはとても幸せだった。
(あなたはアタシの大切な、―――)
ありきたりな代名詞は続けない。きっと、いつか…――――


(大好きよ、シルバー)
自分をとても慕ってくれている彼には少々過激な言葉だろうか。
きっと聞いたら、またあのクールな表情を崩して真っ赤になってしまうだろう。しかしそれが冗談やからかいではなく、心からのものなのだと伝えられる日は―――
そう、遠くはないだろう。


・・・Explanation