大体さ、勘違いしないでほしいんだよね。少し優しくしたからって好意があるとか勝手に思い込んで…。



…好き?



―――人間ってのは気持ちがなくともそういう言葉を言えるモノなんだよ。



野生児のキミにはわからないだろうけどね。
















「…っ」

ルビー、…ルビー!

声の限りに叫び、伸ばした手が空を切ったところではっと目が醒めた。
夢だったのだ、と気づくのに暫くかかって…胸の心臓はドクドクと早鐘をうっている。周りを支配している暗闇に慣れようと、目は闇を一点に見つめ――――。
次第に慣れてきて回りを見ることは出来たが、此処は何処なのかという判断は出来なかった。


足元は柔らかい葉郡でもなく、硬い石床。


…ここは何処ね?なしてあたしはこんな所ばおると…?
そう自問して、やっと思い出した。

確かルビーとほんのつまらないことでケンカをして、思わずルビーの元を飛び出してしまって…地形が良くわからないのと、怒りでうまい判断が出来なかったのとで彷徨い、
こんな洞穴に入ってしまったのだった。
とりあえず体を動かそうとして、それを何か強い力によって遮られた。

「痛っ…」

…例えるなら、肩を鉤爪で掴まれた様な痛み。視線を上にあげてみると――――

「オオスバメ…?」

鋭い瞳で見下ろしながら、まるで逃がさないとでも言わんばかりに強くサファイアの肩にとまっている。
サファイアと目があうと、“ソレ”はケェン、と高々に啼いた。

「…こんオオスバメ、普通のよりかなり大きかね…野生のもんじゃなかと」

でも、何故。
そう思うが早いか、いきなり辺りが明るくなった。
自分がいる場所から奥へと、まるで道に沿うかのように奥に向かって(予め置かれていたのであろう)蝋燭に火がついた…。
何がおきたのかと目をみはると、暗闇から一つの影。


「…ようやく会えたな」


ゆらり、と現れたその人物。
赤い妙な装束に身を包み、金色の長い髪、そこから覗く炎のような赤い目―――。何処かこのオオスバメに似た、鋭い眼差し。

どきりと厭な予感が過ぎったものの、誰であるかのはっきりとした判断は出来なかった。
自分の野生的な勘とでもいうのか、目の前の彼を見ると、何処か不安な思いが競り上がってはくるが…。

「こう面と向かっては初めてだな」
「…あたしはあんたなんて奴見たこともなかとよ…一体誰ね!」

どうしてあたしのことを。
そう言いたげに自分を見つめるその瞳は、まさしく“あの日”見た瞳と同じものだった。


カガリの記憶の炎にうつしだされた、一人の少年と一人の少女。
どちらも中々に見れる顔で、(特に)カガリお得意の仕掛け手袋によって視界を奪われた女の子供の方にふと小さな興味が浮かんで―――



“気になるかい?ホカゲ”
“そうだな…”
“この女の子供の方は顔がわれている、いつでも探し出して料理することは出来るけど…あたしはこっちの男の子供の方が気になるけどね”



散々と掻き回されたことだし。どれくらいの実力なのか知りたいね…。
その言葉通り、今カガリはあの男の子供に深い興味を持ち、その子供―――紅珠のガキを追い回している。


…そして俺も、探知器の修理合間にこの女の子供の方を少し調べてみた。
するとどうだろう、面白いことにこの子供…サファイアはあのアクア団と単身対立しているとか。


その時偶然に見た、その名に違わない深い藍色の瞳。


その一瞬で興味は大きく膨らんだ。赤を基盤とする自分たちにとって、藍は忌むべき色であるというのに―――それを捨ててでも、その目は惹かれるもので。
その強い意思と強気な姿勢にひかれているのは多分俺だけじゃないだろうが―――






更に調べれば、もっといろいろなことがわかった。
…この藍珠のガキが、カガリが執着しているあの紅珠のガキと恋仲だということも。


「…お前のことをちょっと調べさせてもらったのさ。…最も、自然と耳に入ってくることもあったがな。…単身、アクア団と対等並に渡り合っている藍珠のお姫様。
まさか、お前の方から近づいてきてくれるとはな」
「…何ば言うとると…」
「俺が誰であるとか、そういうことは関係ないさ」
「…まさかあんた…あのアクアの仲間ったいか!?」
「まさか。俺たちをあんな野郎共と一緒にしないでもらいたいね」
「…いや…似とっとよ。姿形は全く違っとっても、まとっとる雰囲気はあいつらと同じったい」


通常であれば俺たちには目もくれないだろう眼差し…軽蔑の目だ。
“正”を愛し、“悪”を憎むといったような…典型的な瞳。

ああ、その藍色の瞳は俺を蔑むか。苛むか。…深く疑いをもって、俺に憎しみを向けるか。

ゾクリ、と、した。


「…俺が誰なんていいことさ。問題は、お前が面白いかそうじゃないかだけで」
「…?」
「幻を見ただろう?あの紅珠の小僧が、お前に手酷く接する幻を…」
「!何でそれを…」


あからさまに驚いたような表情をするので思わず笑ってしまった。
勇敢に戦いに身をおいているとはいえ、やはり子供。敵の前では不利な感情は隠す、という高等なことは出来ないらしい―――


「お前がうわ言のようにつぶやいてたからな。せっかく俺がふんぎりをつけてやろうって見せてやったのにねえ」
「!!」
「…ガキ。てめえらが色恋事をするには早すぎんだよ」

それまでずっとサファイアの目の前に立っていたホカゲがいきなりひざをつき、彼女の服に手をかけた。
そういうことには疎いサファイアも、流石に何をするのかの予想はつく。

「…っ!気安く触らんで!!」
「ちょっと遊んでやるだけさ。悪いようにはしねえよ」

肩が抑えられているために腕があがらない。
蹴り飛ばしてやろうかと思ったが、ホカゲが体重をかけ乗りかかってきているためにうまく動かすことが出来なかった。

ホカゲの冷たい指が肌に触れ、思わずらしくない悲鳴のような声をあげてしまった。
ホカゲはそれに少し笑い、更に服を肌蹴させようと前を開かせる。
首元が解放され、鎖骨が見えるかといった所で…楽しげに服に手をかけていたホカゲの手が一瞬とまった。目も見開かれ、大層驚いたといった様な表情。


そこにあった、思いもしない情痕。
嫉妬深い恋人がよくすると言われる、“自分の所有物”とでも言わんばかりの赤い印―――


「…こりゃあまあ…。…お前、完全にあの小僧のモンなのか」
「…だから…離すったい…!」
「―――まさか。他人のモンだってわかったらもっと欲しくなるに決まってんだろ。…俺は貪欲なもんでね」
「!」
「…アクアと同等以上に渡り合う凛々しいお姫様。…どうやって乱れんのか、俺にも教えてくれよ」


バサリ。


まるでその言葉が合図であったかのように、肩にとまっていたオオスバメが飛び羽ばたく。
そしてホカゲは素早くサファイアの腕を取り、片手ででそれを封じ込めた。そしてそのまま後ろの壁に強く押さえつける。

「っつ…」

細い腕がまるで捻じ曲げられるかのように締め上げられ、サファイアも思わず顔を顰めた。
ホカゲはそれに構うことなく、先ほどと同じように滑らかな肌の上を一撫でしたあと、ゆっくりと舌を這わせた。
情痕を睨み付けながら首元から鎖骨へと降り、肩でとまっていた脱ぎかけの服を完全に下ろす。

「!!や…っ!」

…まだ熟しきっていない小さな膨らみ―――しかし、月光に照らされて凹凸をはっきりとさせたその肢体は何処か艶かしい。
へえ、とさも興味深げにホカゲは卑しく嗤った。

「安心しな、俺は別に“そういうコト”にはこだわんねえから」

サファイアの頬が羞恥で赤く染まる。
壊れ物を扱うかのようにそれにそっと触れてみた。触り慣れている売女たちの豊かな胸とは違い、平らにも近いそれ。
まるで少年のようだ。通常なれば決してそれは欲情の相手になりえないだろうし、“オカズ”に出来るようなモノでもないだろう。

なのに、何故こんなににも自分は昂ぶりつつあるのだろう。

気丈に自分を睨みつけてはいるが、確実に彼女の瞳には怯えが含まれていっていた。
当然だろう、名前も素性もしれない男にいきなり束縛されこんなことをされているのだから。…しかも、まだ経験もあるかないかの処女。

「最近売女ばっかだったからな…経験がありすぎる女ってのはつまらねえな」

膨らみにそって舌を這わせる。体がビクリと跳ね、だんだんと彼女の体が強張っていくのがホカゲにもわかった。
恐怖で言葉も出ないのだろうか。…否、無言で圧力をかけているつもりなのだろう。本当なら罵詈雑言を並べたくて仕方ないに違いない。
それでも言葉を発しないのは、きっと快楽に我を見失わない様に構えているせい。…決して無抵抗にはならない所も、またそそられるところだった。

何より、反応が初い初いしくてゾクゾクする。しかも、目の前にいるのはあの藍色の瞳の少女。


…あの紅珠のガキの下でも、このような反応をしてあいつを悦ばせているのだろうか。


「…あのガキもこんなことをするのか?」
「っんぅ…っ」

桃色の小さな突起に触れ、指の腹で何度も撫ぜる。
頬は紅潮し、微かに玉のような汗が噴出し始めていた。それでも快楽にじっとこらえるかのように、瞳はきつく閉じられ、歯は食いしばって。
手で突起を弄びながら、彼女の唇を強引に奪った。

「―――サファイア」

瞬間、サファイアの瞳が大きく見開かれる。
舌を強引に挿しいれ、まさに恋人同士が口付けを楽しむかのように口内を犯そうかという時―――

「!ぐっ…」

それまで大人しかったサファイアが思い切り足を蹴り上げ、覆いかぶさっていたホカゲの腹に直撃させた。
腹を押さえ、ごほ、と息を整える。…顔を上げると、彼女の瞳が強く自分を拒否していた。

「…呼ばんで…!」
「…?」
「あたしの名前を気安く呼ばんで…!あんたみたいな奴に名前を呼ばれたくなか!!」


この行為の時にあたしの名前を呼ぶのは、アイツだけ。


さもそう言わんばかりに、強い剣幕でホカゲをにらみつける。
眼前にある深い青の目の中に、驚いた表情をした自分がうつっていた。

「―――いい眸だな」

引き込まれるように、もう一度唇を浚った。
そしてすぐに離す。眉を完全に吊り上げ抗議しようとした彼女の眸に、冷たい表情がうつった。
ビクリと顔を強張らせた瞬間。ホカゲの手がサファイアの柔らかい髪に触れ、乱暴に引き寄せた。冷たい眸が、サファイアの眼前にうつる。

「なあお姫様。…紅珠のガキを思い出せねえくらいに犯してやろうか?」

感情を全くこもらせていない目だった。
こんな眸、見たことがない。…体を弄ばれていた時よりも、サファイアは目の前の男に恐怖を覚えた。

思わず、だらりと力が抜けて。
…体が震えた。



ピリリリリ、リリ…



いきなり、高い電子音が狭い洞穴に響く。
聞き覚えのある音に小さく舌うちをすると、ホカゲはサファイアの髪から手を放しポケギアをとりだした。

「俺だ。……ああ、…そうか……。…いや?別にいいぜ…ああ」

仲間との連絡だろうか。
肌蹴られた服を元に戻し、目の前の男の動向をうかがった。
少しの会話を交わしたあとポケギアはきられ、ホカゲがサファイアに振り返りくく、と嗤った。

「良かったな。お時間だ」
「え…」
「王子様が迎えに来る時間だってよ。」

口笛を吹き、先ほど何処かへと飛んでいったオオスバメがホカゲの傍にとまった。
そしてその足を掴むと、砂埃を撒き散らして上空へと飛び上がる。

「次ん時は最後までヤらせてもらうぜ」

…ぽかんとしているサファイアを、その場に置き去りにして。








気がつけば、月も大分中天まであがってきていた。
自分にしては生ぬるいことをしてしまった。あの眸を堪能するのにかまけ、肉体にあまり手を出せなかった。

けれども。
やはり彼女は無理矢理にでも自分のものにしたい。犯したい。めちゃくちゃに汚したい。…その眸が完全に涙にぬれるまで。
そんなどす黒い願望が、更に色濃くなった気がした。

諦めるつもりはない。



彼女の眸が、自分の目の前に屈するまでは。










→Next