寒さで身が凍りそうだ。
吹雪く雪の中、睡骨はまるで人形のようにその場にたっていた。
来るであろう討伐隊をここで引き止めるため。

(…もしかしたら、討たれる前にここで凍え死ぬかもしれねえな)

と、情けない死に様も予想してみる。…それほどに、今の状況は厳しかった。
実際ここに討伐隊が来ても、もしかしたら寒さで腕があがらないかもしれない。雪に足を取られて実力が出せないかもしれない。
何せ、冬の間の戦いは控えていた自分たちに雪場で戦った経験はないのだから。

(勝つ自信は正直、ねえな)

そんなことを口にしたら、またあいつに怒られるんだろうけど…
と、そんなことを考えてからふと気づく。

そうだ、あいつはもういないんだった。
さきほど自分がこの場を預かってから、蛮骨のところへ行けと逃がしたのだった。

蛇骨。
何処までも誇り高く、逃げることを選ばない彼。
斬り込み隊長を自称とし、傷を負っても誰かが注意するまでひくことを知らない彼。
お前、いつかそれが原因で死ぬぞ、と茶化しても、それでも一向に構わねえよ、と笑い返した彼。

でも今は。仲間がだんだんと倒れていく今の状況では。
そんな自尊心は捨てて、生き延びて欲しい。死を天秤にかけて、戦い続けることだけを選ばないで欲しい。

(ふん、我ながら妙なことを言うぜ。…医者の人格がまじってやがるのか)

がしがしと頭を掻いた。
傭兵業を生業としている自分が、誰かに死なないで欲しいなどと考えるのは論外なはず。
自分たちはいつだって死が隣り合わせだったはずだ。こういう状況になることだって、予想できたはずだ。

それなのに、蛇骨には死なないで欲しいなどとはあまりに都合のいい話ではないか。

どこかで、誰かが笑った気がした。

(…それでも)

あいつだけは、あいつにだけは…。この命を差し出してもいいから、どうか。
いつも偉そうな態度をとって、兄貴たちを無心に慕ってて、いつも笑ってた彼の笑顔だけは。…失いたくないと。
そのためなら、自分の命などどうでもいい。もう彼に会えなくてもいいから…

(…俺が死ぬこと前提か)

あまりに悲観的な自分の考えに、思わず自嘲した。
否、これはただの想像ではないだろう。第六感とでもいうものだろうか、自分はここで命を終えるであろうことが睡骨にはわかっていた。

…結局、蛇骨には憎たらしい仲間としてしか見てもらえなかったろう。
鈍い彼は、自分の思いなど理解できるはずもない。
憎まれ口を叩きながら、自分がどういう思いでいたかなんてことがあいつに察せられるわけがない。



…もし、この世に慈悲というものが存在するのなら、どうか。

彼に伝えてください。

たった一人の人しか見えてなかった彼を混乱させたくなくて、ずっと抱えていた思いを。













ずっとあなたが好きでした。