「報告します!第一陣、崩れました!敵はまっすぐこちらへ向かって来ています!」
「報告します!第二陣、崩れました!敵はまっすぐこちらへ向かって来ています!」
「報告します!第三陣、崩れました!敵はまっすぐこちらへ…!」
慌てて走りこんでくる兵、腕に傷を負った兵、火傷を抱えた兵…それらが間をあけずに報告に来る。
軍の長である身分のその男は、頭を抱えた。
強すぎる…何という強さだ。
敵方に“彼ら”がついていることは聞いていたが…まさかここまでの強さとは。
彼ら…否、彼の存在を知ったのは数年前だった。まだ男が王座について間もない頃。
生意気そうな目を携えた小童…髪を三つ編みに結った少年が、僧衣で身を包んだ男と共に自分の前に現れたのは。
自分の周りを囲んでいた側近たちも一斉に訝しげな目を彼らに向けたのだが―――
俺たちを使ってみねえか?
周りなど全く気にせず、彼は確かそう言った。本来そのような物言いなど無礼にあたるものなのだが…
誰にもそんなことを気にさせないほど、彼のその口調は自信に満ちたもので。
体躯が特にがっしりしているわけでもない、腕は細く、ただ異色といえばその大鉾だけ…何処にでもいそうな少年が。
だから自分は笑った、そなたらの力を借りねばならぬほど落ちぶれてはおらぬよ、と。
彼はそれに気を悪くするでもなく、そうか、という言葉と…
いつかまた会おうぜ、という言葉だけを残して、そこから去ったのだが――――
仲間を増やし、まさかこんな形で自分の前に再び姿を現そうとは。
「報告します!第四陣が……!ぐぁぁ」
報告に来た兵は言葉を話し終える前に、血を吐きながらその場に崩れるようにして倒れた。
その後ろから現れたのは―――――
「いたいた。…覚悟しな、お殿様」
その姿は、妖怪か鬼神か。
…否、人間だ。自分と同じ、人間なはずだ…
細腕に大鉾を持ち、あの日と全く変わらない幼き姿で…彼はそこに立っていた。