華やかな着物を好み、口唇は厚く血のような紅をさし。緑の黒髪と謳われる自慢の髪は簪で綺麗に纏められている。
その顔立ちといったら、そこらの遊女も裸足で逃げ出すもの。
これらは傭兵隊…現、七人隊首領が自分に入隊前、“彼”のことを説明した大体の言葉である。…これを聞いて、どこに「こいつは男だ」と判断できる者がいようか。
実際、自分は「あの兵<つわもの>揃いの傭兵に、女人が混じっているのか」と思った。
そして会ってみて、少ししてから…“彼”が男であることを知らされた時の驚きといったら。
自分の驚きも大きかったが、“彼”の驚きも大きかったようだ。おおよそ初対面の者に浴びせるでもない罵声を、ぴしゃりと自分に言ってのけた。
好みなんてそれぞれだろうが!おれが男だってことも判断できねえなんて…てめえの目は節穴か!
そんな目、刳り貫いちまえ!
そのときから自分と彼の歯車は違っていたのだろう、と今では思うし―――そしてそれを今までずるずると引きずってきたが。
根本的に、考えると…
「何で蛇骨はあんな格好をしてるんですか」
蛇骨の居る前で聞いたらまた「好みなんて」と罵声を浴びせられるから、蛇骨の居ないときを見計らって兄貴分たちに聞いてみた。
胡座をかいて座った自分の目の前では、相棒を磨いている蛮骨と設計図に目を通していた煉骨。
話に聞くと、二人とも蛇骨の昔を知っているらしいし。
「あんな格好?」
「服装ですよ。どうしてあんな…それも、あいつの嫌いな女が着るようなものを」
「そういや初めて会った時は女みてえな服装じゃなかったよなぁ…何でだったか覚えてるか、煉骨?」
隣にいた煉骨に話を振ると、煉骨はふん、と少し考えるそぶりをして―――あぁ、と小さくつぶやいた。
「あれですよ。蛇骨が“遊びたい”といった、あの…」
「ああ、アレか」
「“遊びたい”?」
「お前が入る前な、俺と蛇骨と煉骨だけだった頃―――たまに、依頼の中に日にち指定をしてないものがあったんだよ。殺しさえしてくれれば、いつでもいいっつーやつ。
大抵はこの日までにしとめてくれ、とかいうのが多かったんだけどな…そん中に、色に狂った大名様を討伐してほしいってやつがあったんだ」
時間もあったし、少し遊んでみたい、って蛇骨が言い出して。
煉骨は反対したんだが―――結局、最後には許してな。遊女みたく蛇骨を飾り立ててみたんだよ。
「元から顔立ちは良かったし、そんなに悪い出来にはならないだろう…って思ってたんだが。…今見りゃわかるだろ?…それがそれがめちゃくちゃあいつにあっててな。
これは面白い、と思ってそのままその色狂いの大名様のとこに行ったんだ」
「それで…どうなったんですか」
睡骨が先を催促すると、蛮骨は顔を近づけ、にやりと笑った。
「蛇骨から聞かなかったか?…その国、あいつの色香に見事狂って潰れたんだぜ」
「………」
「あいつなら自慢しそうだがなあ」
睡骨にとっては初耳だった。
蛮骨は自分の自慢話をするかのように、更に続ける。…とても、誇らしげに。
「数日後に俺たちが乗り込んだ時にゃその辺の女中とか妾とか愛人とかは皆殺し、死体がその辺に転がってて。側近の野郎共もバタバタ廊下に死体が転がってたぜ。
…何があったか、何となく想像はついた」
あいつのことだ、容赦しなかったんだろう。殿様の寵愛一身に受けて、かなりの我侭を言ったんだろうなぁ。
女には絶対情けはかけねえだろうし、男だって―――
上様、あの女中が気に食いません。殺してくださいまし。
上様、あの者がおれの着物裾を踏みました。…どうかそれに見合った対処を。
…あいつの冷酷さが思う存分発揮される場面が、容易く想像できる。
現に、蛮骨と煉骨が王座に乗り込んだ時、その主は王座で首をばっさり斬られて息絶えていたと言う。
傍には、艶かしく着物を崩して寝転び、血のべったりついた刀を指で弄んでいる蛇骨―――乾いた声で、こう笑ったという。
蛮骨の兄貴、これ面白い。男がこんなにひっかかりやすいたぁ思わなかった。
…おれ、これからも女の格好してていい?
「蛇骨一人で、刀を使わずにその色だけで国をつぶしたってわけさ。…まさに契情だな」
「それからだな、あいつのあの格好は…動きやすいってのもあっただろうが」
力を使わず、蛇骨が一人で国を潰したのはそれだけだというが、それからも蛇骨の色香に狂った者は多いらしい。
それこそ、数え切れないほど――――。
何と言うか、…改めて恐ろしいというか。
…しかも、自分もその色に狂った一人だというから皮肉だ。
「ま、その辺の話は本人から聞きな。床ん中で、その卓越した技巧を使って思う存分に語ってくれるだろうよ?」
クク、と笑い茶化すような蛮骨の言葉に、睡骨は曖昧な笑みを返すことしか出来なかった。