最近、誰かが自分をしきりに呼ぶ夢を見る。



…蛇骨!!



「…」

その声に反応して振り返ると。
結構大人数の影…が、自分の方に手を振っているのが見える。
その中でも、一番強く自分の名を呼ぶ影。
でも、顔がよく見えない。
顔を見ようと近づくと、いつも足に何かが絡みつくような感覚。
それから逃れようともがくと、―――目が覚める。
…いつも、こんなことの繰り返しだった。


「蛇骨」
「…」

夢から覚めると、いつも目の前にはあの男がいた。
…奈落。
自分を愛しむかのような、そんな目で自分を見る男。

「どうした、またうなされておったようだが」
「また、あの夢を見た。…しきりにおれを呼んでるんだ」

声が聞こえるんだ。
愛しい者を呼ぶかのように、自分を呼ぶ声が。

でも、自分は知らない。
…思い出せない。

「どこかで見たような気がするんだけど…でも、誰だったかが思い出せねえんだ」
「…思い出さなくて良い。お前は、わしの元にいさえすればそれで良いのだ」

いつもこのことを話すと、奈落は一瞬だけ忌々しそうな目をして、それからおれを抱きしめる。
それを拒む理由がないから、おれは抵抗しない。

でも、聞こえるんだ。
そんな間でさえ、何処からかおれを呼ぶ声が。


蛇骨、蛇骨


脳内に直接響くかのような、強い声。

おれはこの声の主を知らない。
主だけじゃない。
おれは、…奈落しか、知らない。



でも。



少なくとも、この体をいつも抱きしめてくれていたのはこいつじゃない。

おれの体はそうおれに訴えていた。
…理由は、ないけど。