しゃんしゃんしゃん。
聞き惚れるほど綺麗な音がしたら気をつけろ。
振り向けばきっとそれがお前の命取り。
「いっちょあがりっと」
ザシュッと音を立て、数人の男たちがその場に崩れ落ちる。
その死に顔は、どうしてといったようなそんな不思議そうな顔だった。
たった一太刀であの世行き。
血に染まった大地を満足そうに見ると、ふと近くでびいん、という高い音が聞こえた。
振り向くと、武士らしき男が宙に舞う姿。血を放物上に描きながら、男の腕や足が蛇骨の近くにもばらばらと崩れ落ちた。
「煉骨の兄貴」
男の胴体からひゅん、と鋼糸を腕で巻き取る煉骨。蛇骨がいるのに気づくと、立ち上がりふうと息をはいた。
「そっちも終わったのか」
「あったりめえよ。あれぐらいの数、どうってことねえ」
煉骨の隣に並び、再び転がっているそれらに目をやる。そこには、地獄絵図のような光景が広がっていた。
“慣れていない”者であれば、きっとこの光景に吐き気を催すであろう。
それに慣れている蛇骨は、吐くどころかうっとりとした目でそれを眺めていた。
「あー…何て言うか、きれーだよなあ」
夕焼けと赤い血。
その微妙な色の混合が、とても綺麗だ。
赤という光景にまるで花を添えるかのような武士たちの死体。
顔が美しくないのが不満だが、とりあえずそれらはこの光景をとても奇妙に彩ってくれる…。
「蛮骨の兄貴は何処行ったんだ?」
「大兄貴はまだ戦ってんだろ。指揮官を狙ってる」
「そっかあ。何かさ、この光景を肴に酒でも…って感じじゃねえ?」
「…悪趣味な」
煉骨がため息をつく。
ふと、まだ動いている男がいることに気がついた。蛇骨刀の“当たり”が浅かったのだろうか?
蛇骨と煉骨から少しでも離れようと手を地に這わせながら、うぅ、とずるずる動いている。
蛇骨は口の端を少し持ち上げ、蛇骨刀を腕高く上げ振った。
「い、いやだああああ」
男の断末魔と、蛇骨刀の絡みつく音。
糸が蛇骨の腕の力によって弾かれると、しゃらん、という音がその場に響いた。
そして、びしゃっと舞う血。蛇骨の草履にも微妙ながらも血がついた。
それに嫌悪するでもなく、蛇骨は楽しそうに見つめる。
「…きれーな音」
「…は?」
「おれ、耳が麻痺ったのかな。これが体に絡みつく音って、…なんてきれーなんだろ」
蛇骨刀を、まるで愛しむするかのように撫でる。その目は、何だかとても狂っているように見えた。
刀が人を殺す音が、とても綺麗だなんて。
尋常な精神ではそんなことは言えない。そんなこと、思いつきもしない―――
「煉骨の兄貴もそう思わねえ?…そういや、煉骨の兄貴のその糸の音も、…たまにきれーだと思ってた」
「そうかい」
糸が人を弾く瞬間。びいんとしたその音も、まるで三味線で心地よい音を弾くかのような。
綺麗な音を、人の体によって奏でようとしているかのような。
「…何だか、あれみてえ。何だっけ、あの…」
「…鎮魂歌、か」
「そうそう、それ!」
荒ぶる魂、醜い魂。
おれたちの“快楽”のために死んでくれ。
綺麗な音で、彼岸へ送ってあげるから。
まるで楽の音のように。
残酷なまでに美しいその音色で。
「…死ぬやつって、何を思って死ぬんかな」
「さあな」
何を思い返す暇もなく、ただその綺麗な音だけを耳に焼き付けて。
鎮魂歌。
せめてもの慰みに、楽の音のようなそれを聞け。