「んっとーに…キレーな空だなあ…」

ぴー…ひゅろろろろ…

鳥が空を舞い、甲高く鳴く。
岩の上に転がりこうやって空を見つめていると、何だか空に吸い込まれそうな感じだ。
自分が言うのもなんだが、今現在血みどろな戦いが起こっているなんて本当に思いもしない―――

「なーに寝転がってんだよ、大兄貴」

ひょい、と視界を遮る顔。空が広がっていた目の前に、蛇骨の顔が大きく現れた。

「何暇そうにしてんだよー。暇じゃねえんだからさ。さっさとしなきゃだめなんだろ」
「そうなんだけどなあ……ったく、何かだりいわ…何だか何もする気がおきなくなった」

ごろり、と蛮骨が岩の上で寝返りを打つ。蛮骨の“こういう癖”は生前からのこと。
特に文句を言うでもなく、蛇骨は蛮骨の隣に座った。

「ったく、大兄貴はきまぐれなんだから」
「何だかなー…せっかく生き返ったんだからもっともっと血祭りにあげてやりてえって気持ちと、
せっかく生き返ったんだからこの世でゆっくりしてえって気持ちが交差してんだよなー…」
「あん?」

蛮骨が岩の上から、下に生えていた白い花に手を伸ばす。
存在を誇示するわけでもなく、ただ可憐に咲くそれ。細々と生きるその姿は、どこか目を奪われた。

「俺たちが死んだのって冬だったよなー。今ここは春だ。…あれから何年くらいたったんだろうな?」
「さぁな。何十年かはたってるだろ」

蛇骨が特に興味なさそうに答える。ぽかぽかと春の陽気に誘われて、蛇骨もうとうとと瞼を閉じかけていた。

「また殺し合いができるってことはうれしいけどよ。…生き返ったってことは、また死ぬんだぜ」
「…」
「奈落ってやつが俺を生き返らせてくれたってことには感謝してるつもりだったけどよ。
…たまに、思うんだよな。…これでよかったんかなってさ」

再び体の感覚を感じたときは、“また暴れてやる”って思ったけど。同時に、心のどこかに虚無感。

俺、間違った道選んでねえよな?

俺は今までしたことに後悔したことなんてねえ。
でも、それは…もしかしたら、してきたことを“振り返らなかったから”間違いに気づかなかっただけかもしれねえ。

けど。

隣に転がってる、―――蛇骨、おめえの骨を見たらどうにも…

間違ってたっていい。俺は蛇骨、おめえや皆に会いてえって思って…。
…気がついたら、四魂のかけらを皆に仕込んでた。

「…蛇骨、おめえはどうだ?」
「…何が?」
「俺がしたこと、…違ってたと思うか?」

蛮骨の強い、藍色の瞳。まっすぐと、それが蛇骨に向けられていた。

「…大兄貴が選んだことだったら、例え違ったことだっておれにとっては正しい。大兄貴の決定が、おれの決定」
「蛇骨…」
「大兄貴が選んだ道だったら、たとえ何処につながってよーともおれは後悔しねえよ。
…それは、おれだけじゃなくてほかのやつらもそうだったと思うぜ」

あなたを信じてついてきたんだから。
討ち取られたあの冬の日も、最後に意識が途切れるその瞬間さえも。

「煉骨の兄貴も睡骨も霧骨も銀骨も凶骨も、もちろんおれも。だーーーれも、『あぁ、間違ってた』なんて思ってなんていなかったと思うぜ。
タノシク殺し合いしてたんだからよ」
「…」
「今だってそうじゃねえの?また一緒に7人で暴れてやろうぜ」

だから。

「間違ってただろうかなんて聞かねえでくれよ。大兄貴が正しいって思ってたら、おれたちもそれが正しいって確信できるんだから。
…死なんざ怖かねえよ」
「……そうだな。たとえ死んだとしても、地獄でだって俺は正しかったって叫んでやるぜ」
「そうそう、その意気!おれも一緒に叫んでやるよ」

また7人で地獄でだって暴れてやろうじゃないか。
一蓮托生、俺たちはどこでだって。

「…さ、じゃあ行くかぁ」
「…やっとその気になったのかよ」

地獄で暴れる前に、この世でまず。

お礼参りをしないと、な。