「蛇骨、犬夜叉がこの中にいるぜ」
「え!?本当か?」
「あぁ。しかも人間に戻ってやがった。黒髪で…きっとてめえが気に入りそうな面だ」
「マジかよ!くうう、そそられるな!」
蛇骨は思ったとおり、嬉々とした表情を露にした。
これでいい――――思惑通りだ。後は、蛇骨と犬夜叉を引き合わせて…
「煉骨の兄貴、ありがとなっもうおれの味方は煉骨の兄貴だけだぜ〜!大兄貴なんてさ、おれと犬夜叉の間を
引き離そうとばっかりすっからよ」
ぎゅう、と抱きしめられた。そして、屈託のない笑み。
暖かい体温が、蛇骨の腕の中から伝わる―――――
……………
「じゃあ、行ってくる!可愛い犬夜叉とご対面、ご対面っ」
「蛇骨…」
先程犬夜叉が入っていった穴にもぐりこもうとする蛇骨を、小さな声で呼び止めた。
蛇骨が、何てことのないいつもの笑顔で肩越しに振り向く。
「ん?何?」
「…蛇骨、…俺のものにならねえか」
「…?」
先程見せた蛇骨の顔。
…情けなく、決心が揺らいだ―――彼がこのまま自分と共に道を外すというのなら、それもいいと思う。
彼が蛮骨から離れ、…自分についてくるのなら――――
「何言ってんのさ、煉骨の兄貴」
何処か拍子抜けの顔で。…蛇骨は、苦笑した。
「おれはいつだって煉骨の兄貴のものじゃん。今までだって、これからだって」
「………」
「違う?」
何も邪気のない、その表情。―――後ろ手で、き、と鋼糸を掴んだ。
蛇骨の笑顔は、めちゃくちゃ綺麗だな。何か、浄化されそうな感じだぜ。
それに、いっつもガキっぽいくせに変な所で大人びてるしよ。ちょっとした所で、いっつも驚かされる。
蛮骨が前に、そんなことを言っていたのを思い出した。
「あぁ…そうだったかな」
「だろ?変な兄貴。あ、もしかして、煉骨の兄貴、寂しいのか?」
「そうだな…そうなのかもしれねえな」
「何だー。…じゃあさ、犬夜叉しとめて全部仕事終わったらさ、大兄貴と三人で酒でも飲もうぜ」
――――大兄貴。
「でさ、その後にでも、じぃっくりおれと抱き合おうっ」
「あぁ…そうだな…」
煉骨の何処か抜けた返答に蛇骨は少し怪訝そうな顔をしたが、すぐににかっと笑った。
「じゃぁな、煉骨の兄貴!また後で会おうぜ。おれが犬夜叉めっちゃくちゃ可愛がって、そしたら息の根止めてくっからさ!
安心して待っててよ」
「あぁ…期待してるぜ」
虚無な説得。
何も得られない、言葉なんかじゃ―――――
得られるものは、自らの体で奪え。
力づくでも、ほしいものはこの手で奪え。
説得はもはや無意味。