「よー蛮骨の兄貴!」
「無事だったか、蛇骨」
振り返ったその姿。
衣装が変わっているものの、その笑顔に何の変わりもない―――。
他愛もない会話をしつつ、二人で近くの寂れた寺へと歩みを進めた。
***
「ちょっと変だけど、って余計だぜ大兄貴」
「ははは。とりあえずご苦労な」
睡骨の形見、四魂のかけらを渡される。
また一人、仲間が散ってしまった…。先程会った煉骨から、最猛勝の銀骨の死の報告が確実だったことを知らされたし。
後、七人隊はもう三人…自分、蛇骨、煉骨。
学に疎い蛇骨もそれは理解できているようだ。
「全く、へまったな。もう七人隊も俺たちだけだぜ」
「何としても、おれたちだけで犬夜叉たちをしとめねえといけねえよな。…大兄貴、煉骨の兄貴は何処行ったんだ?」
「ああ…犬夜叉を追えって言っといたから、白霊山の中にいるだろ」
煉骨……。
その名を蛇骨から聴いた瞬間、彼の姿が脳裏に浮かんだ。
自分はあのかごめという女ほど四魂のかけらの存在が見えるわけではない。何となく、感じ取れる程度だ。
煉骨が銀骨のかけらを使っていることは、瞬時にわかった。―――自分にそのことを報告しそうにない、ということも。
しかし、まぁそれはいい。それを使わなきゃ、死にそうになったのだろう。
けれど。
(…四魂のかけら……あんな小せえもんに、煉骨を奪われるとはな)
弟分は皆自分のもの。
そういう意識が自分の中では大きかったのだが、まさかあんな小さなものに煉骨の心を奪われるとは。
(煉骨…俺を裏切って、どうするつもりだ?)
自分から離れ、何処へ行くのか、何をするつもりなのか。
…何処に落ちていくつもりなのか。
裏切りは許さない。そのことは、前にも煉骨に言ったはず。
彼は、その言葉を無視してでもすべきことがあるのか。
…自分を、殺そうとでもしているのか。
…解らない。
(俺も落ちたもんだぜ…弟分たちの考えてることは大抵わかったもんだけど)
何にせよ、彼は自分の所に戻る気はなさそうだ。
自分では、…煉骨を引き止めることは出来なさそうだ。
「大兄貴?」
「…蛇骨」
屈託のない顔をむけられる。
…蛇骨。
お前なら。
「…蛇骨、煉骨を頼むぜ」
生前から、煉骨が銀骨と…蛇骨にだけは、人間らしい、暖かな情というものを見せていたことは知っていた。
銀骨はもういない。…蛇骨なら、煉骨の心を引き止めることが出来るんじゃないか、と。
―――期待してしまう。
(自分に出来ねえことを人に託すなんて、初めてだぜ)
情けねえけど。
煉骨も、蛇骨になら…と。
「?よくわかんねえけど、煉骨の兄貴の所に応援に行けってこと?」
「ああ…まぁそういうことだ」
「わかった。白霊山に犬夜叉もいるんだろ〜?都合がいいや」
嬉々とした蛇骨の表情が少し痛い。
せめて、彼には気づかないでいてほしい。
…信頼している兄貴分の変心に。
「じゃあな、大兄貴!後で会おうぜ!犬夜叉の犬耳でも土産に持ってきてやるよ〜」
「ああ。…でも、犬耳はいらねえよ」
土産なら、煉骨を連れてきてくれな。
…昔みてえに、俺にいい知恵を授けてくれていた、素直な彼を―――。
「…待ってるぜ」
後ろ手を振る蛇骨に、小さな祈りのような言葉。
落ちていく弟分を救いたい。
夕日が、山に落ちようとしていた。