誰かがおれを呼ぶ声。


蛇骨、蛇骨


うるさいなあ…眠いんだよ
もう少し寝かせてくれよ…


「蛇骨っ!」


…。

首元に暖かい感じ。
ぐるぐると世界がまわって、体中に感覚を覚えて。

指先で、土をとらえて。
鼻で、草花の匂いをかいで。
耳で、風の音を聞いて。
肌で、暖かさを感じて。

目で、大兄貴の姿をとらえた。


「…大兄貴…?」

一瞬、また大兄貴が寝起きの悪いおれを起こしにきたのかと思った。
煉骨の兄貴の今日の朝ごはんなんだろうな…
今日の睡骨はどっちだろうな…

けど、そんな暢気なものじゃなくて。

…。

「大兄貴…おれ…もしかして」
「…」

…生まれ変わった?
じゃなくて、――――蘇った…?

むくりと起き上がり、大兄貴の前に座る。
おれは裸で、“まとめてたはずの”髪はざんばらに肩に流されてて。
少しまぶしかったけど、そこには大兄貴の姿。

「大兄貴…」
「…」
「…何か言ったらどうなんだよ。折角蘇ったんだからさあ」

久々に会う弟分だぜ?何かかける声はないのかよ。
おれが笑いながらそういうと、大兄貴はああ、とつぶやき頭を照れくさそうにかいた。

「や、何だか…信じられなくて…言葉が出なかった」
「……大兄貴らしくねえ」

首がまだ暖かい。
よく解んねえけど、大兄貴がおれを蘇らせてくれたんかな。
大兄貴はまだ信じられないのか、おれの顔をしばらくまじまじと見つめていた。

「大兄貴、おれに何か言うことねえの?」

くすくすと笑ってみせる。
その仕草さえ、大兄貴には懐かしいものなのか。
少しおれを見た後、ああ、と続けた。

「悪ィ。えっと…。…おはよう」
「…おはよう」

大兄貴、色気ねえなあ。
もっとさ、会いたかったぜ、とか場面に応じたこと言えないのかねえ。
ま、それが大兄貴らしいのかもしれないけど。

「そうだ、蛇骨。…これ」
「ん?…ああ、簪か」
「前のやつほどじゃないけど…今はとりあえずこれで勘弁してくれ」
「いいさ。大兄貴がくれるものなら何でも」

そっか、と言って大兄貴は笑った。

ああ、懐かしい笑顔。

討ち取られたあの瞬間から、おれの目に焼きついて離れなかった、大兄貴の悲しみに満ちた顔じゃなくて。

大兄貴の笑顔。

ああ、目覚めてすぐに見れてよかった。
何で蘇ったのか解らないけど、…大儲けってやつだ。


死ぬ直前に祈った、あの言葉。



今度目覚めるときも、最初に見るのはあなたでありますよう――――

…叶えられて良かった。


受け取った簪が、何だか歪んで見えた。