「なあ、ホカゲ。あんた今ヒマかい?」






決まったアジトを持たない彼らが、今一時的にアジトにしているある小さな洞穴。
そこで短い休眠をとっていたホカゲは、聞きなれた声にゆっくりと目をあけた。…予想通りそこに立っていたのは、しばらく団を離れていた仲間の女。

「…カガリ。またいつもの気まぐれか?」
「ふふ。あたしは完璧主義だからね…変なことで時間をとられたくはないのさ」

また、あの紅珠のガキ関連だろう…一回手合わせをした、あの少年。
確かに何処かひかれるものを持っているが、今はどうでもいい。…今はそれ以上に、気になっているものがあるからだ。

「…ホカゲ、前あたしたちがアジトにしていた場所、覚えてるだろう?」
「それがどうした?」
「ちょっと忘れ物をしちゃったみたいなんだよね。…取りにいってくんないかな?」
「何だ、雑用か?」

それなら他の下っ端共に行かせろよ、と率直な返事をかえす。
…が、カガリは不適に笑っただけだった。とろりとまどろんだ妖しげな視線を、目の前の男に向けて。

「きっと“それ”は、あんたにとっても嬉しい忘れ物だと思うけど?」
「……」
「…そう、忘れ物っていうよりはどっちかといえば置き土産だね」

…察しられていたか。飄々としていて男勝りなこいつも、やはり女―――特有の鋭い感には、自分でさえも驚かされることばかりだ。
ホカゲは口の端を持ち上げ、ゆっくりと腰をあげた。

「わかったよ、行ってくる」
「頼んだよ」
「ああ」


洞穴を出れば、薄くかかっていた雲が風に流れ、大きな丸い月が姿を表した。
―――ああ、今日は満月だったか。


…深い暗闇。星はなく、照らすばかりは白い満月のみ。…“悪役”には最高のシチュエーションだ。
口笛と共にあらわれたオオスバメの足をつかむと、記憶の炎をともし、ホカゲは以前のアジトへと飛んだ。







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