それは、奇妙な図だったかもしれない。




電気すらつけられていない暗い部屋の中、両手首をバンダナに縛られて横たわっている少女と、窓辺に置かれた椅子に座ってそんな少女を眺めている少年。
窓は大きく開かれていて、心地よく優しい夜風がカーテンを優しく揺らしている。
少年はそんな優しい風をまるで無視するかのように机に肘をつき、何をするでもなくもう片方の手で暗緑色の小瓶を弄んでいた。


「…このクスリ… よく効くんだねえ」
怪しげな男から買ったものだから、もしかしたらまがいものをつかまされたかとも思ったが。
そんなことは杞憂だった、 サファイアの今の反応を見れば。

桃色の錠剤を1,2個握りしめ、目を潤ませて全てが蕩けるような甘い表情を浮かべている。
(まあ、本人にとっては苦痛の表情のつもりなんだろうけど。)
普段病気など一切しない彼女、 クスリなんて存在すら知らない。
ルビーのデタラメな説明を真に受け、あっさりとクスリを口に運んだ。暫くは何ともないようだったが、段々と頬が赤みを帯び、椅子から崩れるようにして床に倒れ―――
意識を失うことはなく、虚ろな目だけをして欲望に耐えている。



「…まだ、足りない?」
少し“遊んで”あげて何度か達したようだが、それでも疼きは未だおさまらないようだ。
彼女の指が、(ほぼ無意識にだろう、)下腹部へと動きそうになると。…手首を絞めているバンダナをしっかりと握り自分の方へと引っ張った。

「駄目だよ、自分でイくのは許さないから」

優しい声音だったが、今の彼女にとっては何よりも残酷な言葉だったろう。
それでも恨み言を言うことはなく(否、言えなかった、が正しいだろうが)、代わりに抗議するかのように鋭い爪を立ててカーペットを引き裂いて。
…内部から発せられる熱さから少しでも逃れるためか自然に衣服は乱れ、彼女の体はまるで床上でうねるように動いていた。


―――嗚呼、何て色っぽいんだろう。
普段は野生人丸出しでまるでボクの美観に反するくせに、こういう時になるとどうしてキミはこうボクをそそるんだろう?
「キミの姿…ずっと見ていたいなあ」
まるで美しいポケモンを眺めているかのように、うっとりとしてしまう。
扇情的なキミを狭い部屋に閉じ込め、鍵を何重にもかけて、ずっと眺めていたい程。(そういうのを視姦というのだろうか?)

裸同然の姿で野山をかけまわる、…野生的だけれど、それはキミの一つの魅力。 ボクの前で、可愛い姿を晒す、それもキミの一つの魅力。
自分では意識してないだろうけど、そんなしぐさの一つ一つに男は魅了されているんだよ。
ボクがどれだけ気が気でないか、わかっているのかい?


ボクはそんなキミに振り回されてばかりだ。
だから、ボクは仕返しにとキミをこんなににも虐めてしまうんだよ。


今のキミは。
例えるなれば、羽根をもがれた鳥。もしくは、慈悲を知らない悪餓鬼に弄ばれる子猫。もしくは、……


「ル、 …ビィ…ッ」
「…苦しいかい?サファイア」

やっとの思いで一言を発した少女をまるで嘲笑うかのように、ルビーは呑気な言葉をかける。

「…やめ… っ  も、う… …ぅぁあ」
「今は素直じゃない言葉なんて聞きたくないな… もっと、ボクの前に本能をさらけだしてよ」
クスリを数個口に含み、床で悶えるサファイアとキスをした。
もはや何が何だか分別さえつかないサファイアは、従順にそれに従う。うぅ、と苦しげに息を漏らしたが、拒否するそぶりは一切ない。
ばらばら、といくつかのクスリがサファイアの口からこぼれていったが、いくつかはまた彼女の体内へと消えていった。

「ふ、 あぁ、あ、 あ… っ」

瞬時に、びく、びく、とサファイアの肢体が更に不規則に揺れる。
声にならない声。  非難の目を向けたいのだろうか、涙を浮かべたその青い双視だけは未だルビーの方を向かれていたが、
…それは、もちろん彼を欲情させる材料にしかならない。


ぞくり、 ぞくり、 ぞくり、 ぞくり。


そ、とそこに触れた。持続性のあるクスリのせいで、何度達しても決して熱は冷めることなく、その桃色の蕾は涙を流し続けている。
―――するりと人差し指で撫であげると、ふあ、とサファイアが高く跳ねた。
…指に、銀色の糸が粘っこく絡みつく。微かにひくつくそこは、早くホンモノが欲しい、と切に懇願していた。
「ねえサファイア、どうしてほしい?」
「ん、 ぁ、ふ… あぁ」
「ボクサファイアと違って“鈍感”だからわかんないなあ」
とは言っても、強い媚薬のせいで彼女の意識は朦朧。的確な反応は返ってこない。
「…お願いしてもらえないのはつまんないな」

しかし、こちらとしても限界。可愛い姿をこれだけ見させられて、我慢など出来るものか。







「っふ、 や、ああ、やぁああぁぁ」
「っ…成程… 凄い、な」
出来るだけゆっくりと中に挿れたつもりだったが、このサファイアの乱れっぷりときたら。
しめつけも強く、まるでこのまま引っ張られていきそうな… 

媚薬を飲んでいるのは彼女だけのはずなのに、自分に襲い掛かってくるこの痺れるような感覚は何なのだろう。
狂ったかのようにルビーは出し挿れを繰り返した。それは無意識の内に素早さと激しさを増し―――

「ッ ひ、 ぃあああぁぁあぁあぁあ―――― ッッ!!!」

中に熱いものが迸るのを感じた時。
いつものように声を抑えることすらせず、サファイアは本能のままに高く啼いた。







荒く呼吸をし続けるサファイア。肩が数回大きく揺れたあと、膝を崩しぐったりと床の上に力なく倒れた。
腰に添えていた手を離し、彼女を解放する。 サファイアの白い肢体を少し見つめ、それから額に手をあてて―――口の両端を持ち上げた。

…面白い。

「…今度は…塗り薬でも試してみようか」

くつくつと喉の奥で嗤う。 
嘲笑けは誰にも聞かれることなく、全てルビーの中へと飲み込まれていって。

「明日にでも試してみようか。…直接塗ったら、今度はどれだけ乱れてくれる?サファイア」


楽しみだな。 
涙に濡れた彼女の頬を優しく撫でる。――――それは、慈しみのようで。 







夜は未だ明くることなく。
無慈悲な少年を責めるかのように、風は熱を帯びて…周辺の木々をざわりと揺らした。