私には幼馴染が二人います。

一人は、大切な友達。
容姿端麗にしてホウエン一の大企業の御曹司、そしてバトルも強くと世の女性を射止めるために生まれてきたかのような男。
でも少し変わっていて、女性よりも石に興味を持ち、大地にへばりついています。
もう一人は、大切な恋人。
こちらも負けず劣らず美しい容姿を持っていて、頭も良く、まさしく才色兼備―――生まれ故郷でも頼られる女性。
天に憧れ、空を羽ばたいてばかりいます。

二人共、私が幼い頃から一緒にいた大切な存在。






―――“歴史が眠る、神秘の街”と言われているルネシティ。火山の中身をそのままくりぬいたかのような作りの街だ。
この街の特徴は、外から引いている海の水と白亜の美しい建物。
外界の姿を知らないで一生を過ごす人もいるようなこの街は、他の街からは隔離され、独自の進化をとげてきた。
空を見上げれば狭い視界に明るい太陽…その陽射しがルネの半分以上を占める水にキラキラと輝き白亜の建物によく映える。

そんな街の中心ともいえる場所に大きく聳え立つルネジム…その入り口前で、珍しい髪色をした女性が待ちぼうけをくらっていた。




「チルタリス、落ちないように気をつけるんだぞ」
水辺で羽を遊ばせている自分のポケモンに軽く注意をし、ナギは眼前のジムを見上げた。
自分の身長の2倍はあるかのような大きな入り口に、今日は“ジムリーダーのやむをえない事情により臨時休業”の札がかけられている。

何がジムリーダーのやむをえない事情により、だあの馬鹿。
そんなややこしい書き方をしているせいで、ジム近辺のあちこちでたくさんの女性が「ミクリ様に何かあったのでは」と徘徊していることにあの男は気づいてないのか。
しかもルネジム前10時に集合などと手紙までよこしたくせに自分が遅刻ってどういうことだ。
やっと来たと思ったら「あ、ポケモンたちにご飯あげるの忘れてたよ、ちょっと待ってて」ってどういうことだ。

こうして待たされて(女性たちの痛い視線に苛まれて)もうすぐ30分になる。
ジム内に乗り込んでやろうか、とナギが少々殺気立っていると―――上空から、金属音に近い羽音が聞こえた。
聞き覚えがある、この音…。鳥ポケモンの専門家である自分なれば毎日というほど聞いている羽音だ。

「…ダイゴ…?」

「…ナギ?」
久しぶりに顔を見たせいか、一瞬判断に手間取った。
目の前にエアームドに乗って登場した幼馴染が、自分の記憶の中の幼い彼より成長したからというのもあるだろうが…
向こうもそうだったのかもしれない。ダイゴはナギの顔をじっと見たあと、地に下りたった。

「久しぶりだね。前に会ったのはいつだったっけ?ナギがヒワマキのジムリーダーに就任して以来かな?」
「そうだな。お互い忙しい身だから―――」
きちんと主人…ダイゴの傍に立っているエアームドの首筋に触れ、撫でてやった。
「エアームドか。羽が透き通るような美しさ…光沢のある体。相変わらず育て方がうまいな」
「鳥ポケモンのエキスパートに褒められるとは光栄だよ」
「所でダイゴ、どうしてルネに?」
「そっちこそ。趣味で飛び回ってる僕よりナギの方が忙しいだろう?…僕はミクリに呼ばれて」
「ミクリに?私もミクリに呼ばれてここに来たのだが」
「…おいおいアイツ…」
「やあナギお待たせ!」

そこへちょうど、…まるで見計らったかのように…ミクリがジムから出てきた。
ナギに朗らかな笑顔を見せつつ、(全く悪びれてない)すぐに隣に立っていたもう一人の幼馴染に気づく。

「ダイゴ!どうしてここに?……あ、そういえば会う約束してたっけ?」
「そのまさかだな。お前の方から呼び出しておいて」
「ごめんごめん、忘れてたよ」
本当に忘れていたんだろうか。のらりとした彼の態度はたまに推し量れない時がある。
「んーじゃあちょうどいいよ、久しぶりに三人で遊ぼう」
「遊ぼうってお前…」
「いい店を知ってるんだ、お茶の美味しいカフェをさ」

そう彼がウィンクした所で、周りにいた女性たちが「ミクリ様がご病気じゃなかった」とほっとして帰っていく姿が見えた。





「どうだい?静かだし、いい雰囲気の店だろう?」
ポケモンセンターから少し進んだ所にたっている、やはり白を基盤とした綺麗な店だった。(ミクリをはじめ、ルネの人間が好みそうな装飾だ)
ミクリを見て緊張したように声をかけてきたウェイトレス(紅潮している)に何やら言い、さあさあと2人を奥の席へと誘った。
そこはちょうど3人用の席。
ジムリーダーのミクリ、同じくジムリーダーにして美麗な容姿のナギ、知らぬ者はいないだろう有名トレーナーのダイゴとくれば、視線を集めてしまうのは致し方ないことだろう。

「そういえばこうして3人で集まるのも久々だね」
やはり図ってのことだったのだろうか。肘を顎につきながら、にこにことミクリは2人の幼馴染を見て笑った。
何かまだ文句を言いたそうなナギを遮り、ダイゴがミクリに同調するようにそうだな、ときりだした。
「ミクリにはそれなりに何回もあってるけど、ナギには本当に久々だ」
「ミクリには?…ミクリ、あなたそんなにジムを空けているのか?」
一応まとめ役としてギロリとした視線を向けた。すぐにミクリは違うよ、と慌てたように否定する。
「ダイゴの方がここによく来てくれるんだ。…私のジムほどになると私の元まで来るトレーナーも少ないからね、…門下生たちも頑張って私の手を煩わせないように、と
してくれているし」
ああ、そういうことはよくある。
ナギのジムでも、よく「ナギさんが相手をするまでもない」と門下生たちがトレーナーを一蹴することが多々ある。
(大抵はそれをここまで来たのだから、と相手になってあげるのだが。負けたことはないが、いい腕をしたトレーナーは多い)
「…だから私のジムにもよく暇つぶしに来るんだな、あなたは」
「それはただナギに会いたいからなんだけどね…
…ああ、冗談だよ、そんなしかめ面をしないでくれ。…とにかく私はナギにもダイゴにもよく会ってるけど、ナギとダイゴはそんなに会ってないんじゃないかと思ってさ」
「それは仕方ないことだろう?お互い忙しい」


そこまで話した所でオーダーが運ばれてきた。
まず三人の前に小さい皿が運ばれて、その上に2つづつスコーンが並べられて…そしてクロテッドクリームを綺麗に添えられて。
そして台車の上から取り出したポッドに、茶葉から紅茶を入れてくれた。

「こっちはダイゴ。ダージリン、セカンドフラッシュだ。…いい香りだろう?」
「ああ、確かに。…もしかして、マスカットフレーバーかい?」
「勿論」
「値がはるだろうに…」
「こっちからお茶に招待しておいて妥協はしないさ」
ダイゴとミクリはこういう所で気があう。
昔からそうだった。食事などに3人で行くと、彼らはいつも飲み物や食べ物などで討論しあう。
これは○○産のだ、いや違う、○○産だ、だの、この飲み物にあうのは××だ、いや□□だ、だの他の人が見たらどうでもいいと言うであろうことを。
(結局同じ結論に至るのだが。そしてその間にナギが食べ終わるというパターンがしばしば)
「そして、こっちはナギ」
「これは…」
「ウバだよ。これはさっきのよりもっと香りが良くてね…花のようないい匂いがするんだ」
少し強めのツンとした匂いが鼻についた。(不快ではない、すっとする匂いだ)
「ナギはいつも疲れてるだろうから…気分もスッとするだろう?…それに、綺麗なナギには花の匂いが良く似合うしね」
ミクリが少々口説きモードに入っているのを察知したのか、ダイゴがカップから口を離した。

「そういえばミクリ。そろそろ何で僕とナギを引き合わせたのかを教えてくれないか」

うっとりとナギを見ていた目が、じろりとダイゴの方にうつった。明らかに良い所だったのに、と言いたげな目だ。
「…何故か?…うん、まあ理由は2つあるね。1つはナギがダイゴに言いたいことがあるそうだから」
「は?」
「ほら、あのこと」
軽く何かのジェスチャーをしてみせる。
付き合いが長いからそれが何を表しているのかはすぐわかった。
「ああ…そう、ダイゴ、一度お前に聞いておこうと思って。…私の弟子に手を出さないでもらえるかな」
「弟子?…ああ、サファイアちゃんのこと。そういえば君はサファイアちゃんの先生だったね」
「ああ。最近お前の話をサファイアから良く聞く。ダイゴさんによく会うと言っていたが…つきまとっているのか?」
「人聞きの悪い…よくサファイアちゃんに会うだけだよ」
散歩中、彼女のフィールドワークに偶然、よく遭遇するだけだ、と。
…まあ、それがどれだけ彼に仕組まれた意図的な“遭遇”なのかは置いといて。
「…他人のことにとやかく口出しするつもりはないが…仮にも彼女には恋人もいる」
「そ、私の弟子♪」
「ルビー君か…焼けるね、師弟そろって熱愛で」

「ねつっ…」といいごもり、ナギの顔が紅潮した。
そしてすぐに、そんなことを言うな、と焦って否定する。(そういう所まで弟子と似ている)
そしてミクリの「そうなんだよ、熱愛v」とにっこり笑っている表情も、何処かルビーを思い出させるものだった。

「所でダイゴが女性に…というよりは女の子、だけど…興味を持つとはねー私はいつダイゴが石と結婚するかと思ってたけど」
いつ招待状が届くのかずっと待ってたんだよ、とミクリが茶化す。
「…彼女は可愛いからね」
そのダイゴの口調は、社交辞令というにはかなり気持ちのこもった言葉だった。
これは近いうちに一悶着あるかもしれないな…そう思わずにはいられなかった。…何しろ、サファイアの恋人もかなり癖のある少年だから。

「…まあ僕も命が惜しいし、そう彼女と会わないように祈っておくよ」
ちらりとミクリの方を見て、ダイゴがそう括った。(「誰を好きになるかは自由だけどね、ダイゴの場合はライバルがかなり強敵だよね」とミクリが朗らかに笑った)
「それでミクリ、2つめの理由は?」
「わからないかい?」
「お前の考えは突飛すぎていつも読めないね」
ダイゴがそう皮肉ると、ミクリはその彼の手をとり、そしてナギの手をとった。

「こうやって会うの、久々だよね」

「…は?」
「今日このデートにこぎつけるまでどれだけ私がナギを誘ったか。覚えてるかい?ジムリーダー業が忙しいとか何とかでいつも無下にされて…
ダイゴはダイゴで石が何だの宝珠が何だのと。
…私にとってはそっちの方がよほどくだらないことなんだよ。」

「、ミクリ!ジムリーダー業がくだらないだなんて冗談でもそんなこと…!」
「本音だよ。友達に比べればそんなこと。…私にとってナギはジムリーダー仲間である前に幼馴染だ」
大声を出したナギに少しも驚くことなく、やはりミクリは落ち着いてそう言った。
「勿論ダイゴもね。…私たちは無二の幼馴染なんだよ、…“大人になったんだから会えなくて仕方ない”なんて言葉聞きたくないね」
「…遊ぼうって?」
ぽかんとミクリを見ていたダイゴがそう続ける。
「そう。私はキミたちが好きだからね」
「僕への愛情よりナギへの愛情の方が強いくせにね」
「まあそれは当たり前だけど」
(…ああ)
懐かしい、と思った。
ミクリとダイゴの駆け引きのような言い合いも何だか懐かしかった。昔からこの二人はこういう会話が多い―――
笑い出した二人に、自然にナギも笑みがこぼれた。
「あ、やっとナギが笑った」
「ナギを笑わせるのは難しいね。私はいつもナギを怒らせるようなことしかしてないから笑顔なんて久々だよ」
「そうだな。もう少しあなたにはしっかりしてほしいものだよ―――」


それから、その席はあまりに楽しそうに盛り上がっていた。
…それこそ、ウェイトレスが紅茶のおかわりはいかがですか、と声をかけるのをためらったほど。





/end/
◇ミクリ&ナギ&ダイゴは幼馴染説を思いつき書いてしまった突発小説。…な…何かミクリが両刀使いっぽい(笑)
 ウチのミクリは何だか朗らかだなあ、とか思いました…恋人と親友という違いはあれど二人が大好きみたいな…ダイゴとは言い合いもしますが。
 うーんもっと変な人になるはずだったんですが…(弟子があまりにアレだから!笑!) 時間軸はいつなんだだの紅茶の種類おかしいだろ的なツッコミはご勘弁くださいまし;