戦いが全て終わって、陽気な者たちは皆酒宴に興じている。
ある者は勝利を祝い、またある者は戦いで傷ついた者のために泣き、またある者は理由などつけずに騒ぐ―――
ついていけないな。
ルビーは嘲笑にも似たため息をつき、ざわざわとうるさい広間を後にした。
主役と言ってもいいほどのルビーを引き止める者は多かったが、騒ぐこと自体あまり好きではないので(しかも酒など飲めない!)誘いを丁重に断った。
今は何となく、静かに過ごしたかったのだ。
そして、理由はもう一つ。
「…やれやれ、キミも一応は主役だろう?」
二階にあがってすぐの部屋。ルビーが何処にいるのかと密かに探していたお目当ての少女がそこにはいた。
最も、少女は今その藍色の双視を固く結んでいたが。
窓は開け放されており、縁には泥が所々ついている。…彼女は外から直接この部屋に入ってきたのだろうか?
「全く、相変わらずの野蛮っぷりだねキミは」
ルビーの雑言など気にもとめず、大きなベッドに色気なく大の字で眠っているサファイア。
嘆息をもらしつつ、起こさぬようにそっと彼女を抱き上げ静かに布団の中に入れてあげた。
月明かりに照らされ眠っている彼女の顔は、何処か青ざめて見えた。
…無理のないことかもしれない。戦いの中で疲労が溜まっていたのだろう。元気な彼女が皆の前に姿さえ見せなかったほどなのだから…
今更になっても、自分たちがどうして戦わねばならなかったのかはわからない。
普通の人間ならば逃げ出したいほどの重責を負う戦いだった。彼女の正義感がなければ、こんなに気をすり減らすこともなかっただろうに……
(例えどれだけ勝ち目がなくとも、逃げ出すことなんか出来なかったんだろうね、キミは)
そして自分は、そんな彼女に影響されたのだった。
「…滑稽だとは思わないかい?サファイア」
眠る彼女の栗色の髪をすく。それは指を絹のようにすりぬけ、ぱさりとまた布団の上に落ちていった。
何もかもが終わったあとで知った真実。
あの時の女の子がキミであること、そしてキミがそんなににも野蛮になったのはボクがきっかけであること…
本当に、喫驚としか言いようのないものだった。
「ボクはキミに影響を受けてこんな性格になった。キミのあの言葉がきっかけで、ボクはバトルをすることを自分自身に戒めた…キミに見合う、美しい男になろうと思った。
でも、―――知らなかったとはいえ、―――ボクはまたキミがきっかけで戦うことを決意して… ボクは本当に、キミに影響されっぱなしだと苦笑したけれど」
でも。
「…まさか、キミもボクのために“野蛮人”になっていたとはね…本当、滑稽だよ」
そう。
まるでイタチごっこのような自分たちが、滑稽で、滑稽で、
「ボクはとても、嬉しかったんだよ」
どうしてかはわからない。
彼女の人生に影響を与えたのがまぎれもなく自分だ、ということが嬉しかったのかもしれない。
ボクはこの通り、キミに影響を受けっぱなしだ。
惚れた弱みというか、仕方ないことと半ば思っていたけれど…キミも、そうだったということが嬉しかったのかもしれない。
…自惚れてもいいかい?
ボクは、キミに影響を与えられるほどキミにとって“大きい存在なのだ”ということを。
キミが目覚めたらこの思いをどう伝えよう。
「…もうキミとは出会ったり別れたりをすることもなくなったし、…じっくり語るとしますか」
どれだけ自分が嬉しかったか。 …そして、どれだけボクがキミを愛しているか、を。
月と太陽がどれだけ追いかけっこをしても足りないくらい、じっくりとね。