全てを消し去る、炎はとても美しいと思う。
それは宝石のようにあたしを着飾ってくれる、いつであっても。宝石のように青だったり緑だったり紫だったり、美しい輝きこそ持たないけれど。
赤く揺らめいている、―――そのシンプルさにあたしは惹かれていた。
思えば、“カガリ”という名じゃなかった頃から、あたしは火というものが好きだった。
間違っても「日」ではない、「火」だ。暖かな天然の“光”より、むしろ熱すぎるほどの人工の“光”の方が好きだった。
あたしは親に愛された記憶はない。そして、誰からも愛された記憶などない。
女らしく着飾ることもなく、子供らしい愛想もなく、何を考えているのかもわからないような人間に親しくしてくれるものなどいるはずもなかった。
偶然拾ったポケモン・ロコン以外に、あたしは誰にも心を許せなかった。
いや、それは御幣がある。
あたしは「火」には心を許していた。ぱちぱちと小さく、そしてだんだんと大きくなっていって最後には全てを包み込む火…炎。非力で愚かな人間が火に敵うはずがない。
人間は火には勝てない。 年を増すごとに、その想いが強くなっていった。
そして、そんなある時、それは起こった。
何がきっかけだったか、今ではわからない。
気が付けばあたしは村の全てをロコンの火で包みあげていて、大量の人間を殺していた。炭にしていた。
逃げ遅れた若者がドア前で力尽きノブを手にしたまま固まった死体。子供だけはと思い胸にわが子を抱きながら子供と共に死した母親。全ての死体に無念さと忌々しさ、
悲しみが滲みでていた。あたしへの呪い言葉を吐きながら死んだやつもいただろう。
村のほぼ中心部で膝をついていたその時のあたしに、恐怖などかけらもなかった。むしろ、脳内をかきまわすかのような鋭い快感を得られていた。
トランス状態、というのはこのようなことを言うのだろう―――狂ったように笑いながら、眼前に広がる橙と赤のコントラストを眺めていた。
「あはははははははははははは見なよロコン! あんたの火は本当に最高だよ!!」
ロコンがコォン、と高く啼く。
「…やっぱり火は最高だよ… 一瞬のうちに人間を炭に変えてしまえる!美しい、綺麗だよ…これ以上の美しさなんてこの世にはない!!」
「本当にそうだ」
一人で悦に浸っていた気分を害されて、あたしはその不快な声のした方を忌々しげに振り返った。
見れば、そこには…バグーダとオオスバメを引き連れて、こちらをじっと見ている…まだ若い男が立っていた。
彼は火を恐れていなかった。
それどころか、まるで周りの火が彼に敬意をしめして避けているようにも見えた。
「素晴らしい。これはお前のロコンの火か?見ればお前もまだ小さい子どもじゃないか…有望だ」
「…何だい、あんたは」
「俺はマツブサ。お前と同じく火を愛する者―――いずれ、この世界を制する者だ」
俺と一緒に来ないか?
男は手を差し伸べ、そうあたしに言った。そして、あたしの返信を待つでもなくすぐに踵を返した…
まるで、あたしが絶対についてくるであろうことをわかっていたかのように。
そしてあたしも、迷うことは全くなかった。
同じく火を愛する者―――その言葉だけで、あたしはリーダーについていくことを決めたのだから。