「…いいんだ、ママが元気なら!…じゃあ!」

ピッ。
電話の向こうから自分を引き止める声が聞こえたような気もしなくはないが、一方的に切ってしまった。
ポケギアをポケットに放りこみ、待ち人の方へ足を向ける。待ち人とは言うまでもなく、たった一人の旅の付き添い…サファイア。

「…お待たせ」
「あ、終わったと。…ちゃんと電話は入れたと?」
「…入れたよ」
「ちゃんとセンリさんとも?」
「……」

厳しいサファイアの追求に応じず、無言で歩き出した。
すぐにそのあとを追いながら、サファイアはまた、と声を大きくした。

「またあんた母ちゃんにしか電話を入れんだとや!?」
「うるさいなぁ…キミ、ママから何か言われてるんだろ?」
「そうったい!あたしはあんたの母ちゃんから頼まれたと…旅をしてる間はあんたにセンリさんにも電話するようにって!何でセンリさん…父ちゃんには入れんと!」
「…父さんはいなかったんだよ」
「嘘ったい!あたしが今朝父ちゃんに電話したとき、久々にセンリさんが帰ってきてるって言っとったと!」

簡単に見破られ、軽く舌うちをした。

サファイアはとても家族思いだ。彼女には父親しかいないことが主な理由だろう。電気機器は苦手な彼女だが、ポケギアを使って一日一回は家に電話をいれている。
そのため、あまり家に電話をしないルビーをしばしばたしなめ、無理やりにでも電話を入れさせる。
ルビーの母親は大いに喜ぶし、自分も声を聞けて嬉しいにこしたことはないのだが…たまに「お父さんに変わるわね」、と言われるとすぐに電話を切ってしまう。
センリとは一応和解はしたものの、そう素直には接しられない。

…未だに、微妙な思いを抱えているのだ。

「あたしにはわからんったいね〜。仲直りしたんやろ?それで終わり、でいいと思うち、なしてそんなに避けるんか…」
「そう簡単なもんじゃないんだよ。父親と息子じゃ」

たいていはジムのあるトウカシティにいるからいいものの、たまに家に帰ってくると気まずいことこの上ない。
母親が何とか間を保とうとしてくれるが、どっちも意地をはってしまうものだからそれもうまくいかない。
今度は家出なわけではないが、こうして軽い旅に出ているのもそれらが主な原因だ。

「むしろキミみたいにそんだけ呑気でいられれば楽なんだけどね」
「ちょっと!それどういう意味ったい!」

キミの思った通りの意味だよ、と笑う。それを聞いて、彼女は更に顔を怒りで真っ赤にさせた。




その日は街につけなかったので、野宿となった。
旅の最初は野宿なんて真っ平、と思っていたが人間慣れとは恐ろしいもので、最近ではどうでもよくなってきていた。
…それでも汚れるのは極力さけたいので、ポケモンたちは外に出さないし、毛布はちゃんと完備していたが。

焚き木をあつめ火を起こし、冷えてきた体を毛布でくるむ。
携帯食料を頬ばりながら、サファイアはパチパチと燃える炎に木々をくべる。ルビーはというと、手でポケギアを弄びながらディスプレイをじっと見ていた。
何を考えているかは知らないが、物思いにふけっているようだ。

「…あたし、」
「?」
「あたし、あんたがまだこっちに引っ越してきてない頃にセンリさんに会ったことがあるとよ」

まださっきの話の続きか。へぇ、と適当に返事をかえした。

「元々父ちゃんとあんたの父ちゃんは友人同士ったい。父ちゃんが会わせてくれたんと…センリさんはまだジムリーダーになる前、修行中やったけんね」

そうだ。家には中々帰って来ず、母が寂しそうに夜遅くまで起きていたことを覚えている…。
思わず、毛布をぐっと握り締めた。

「…それで?」
「一目見て、強そうな人って分かったとよ」

父に仲介してもらい紹介してもらった時、笑顔こそなかったものの、口数少なく「よろしく」と自分の頭を撫でてくれた。
その手は暖かかった。

「それからすぐにセンリさんはジムリーダーになったと。そん時くらいに、センリさんにあたしと同じくらいの子供がいるちはじめて聞いた」
「…」
「うちの父ちゃんが言い出したけんね。センリさんはちょっと眉をひそめてあんたのこと“不肖の息子”ば言ったけん」
「…そうだろうさ」

意味はわからなかったけど、父の態度からなんとなくいい意味じゃないということは悟った。
…けど。

「まだ続きはあるったいよ。“馬鹿息子だが、可能性はある奴だ…仲良くしてやってくれ”ば言い足したけんね」

ルビーはその言葉にさも意外そうにぽかんとした表情を浮かべた。
その顔が見たかった、とでも言わんばかりにサファイアはにっこりとして、空を見上げる。
うーん、と空に向かって大きく背伸びをした。

「んで、あんた。…あたしはセンリさんに憧れとったとよ。強さを追い求め、現状に満足することなく更なる高みを目指す…トレーナーの鑑ったい。
…そのセンリさんの息子ち聞いたけん、あたしはどれだけ鍛えられた奴かとワクワクしとったとよ」
「…悪かったね、鍛えられた奴じゃなくて」

まぁ、それなりに鍛えられてはいるけれど…サファイアもそれなりにそのことを知っているはずだ。
しかし最近またまともに戦ったことがないので、彼女にとってはコンテスト優先、の自分の姿が目に付いて仕方ないのだろう。

「本当ったい。実際会ってみればバトルなんて大嫌い、コンテスト命な奴…正直、がっかりしたとよ」
「……」
「…でも、あんたがそんな奴やったけん、…きっとあたしはあんたにひかれたんと」
「え…?」
「男のくせに化粧ばするし、頑固やし、性格変やし、妙にあたしに突っ掛かってくるし、初めは大嫌いやったけど…今はそんなあんたがあたしは好きったい」

よくもそんなに欠点ばかり口々に並べられるものだ。一瞬ピキリと来たが、最後の一言でそれは全て吹っ飛んだ。
サファイアもさすがに気恥ずかしいのか、何でやろね?と照れ笑いを浮かべる。それを見て、ルビーも珍しく顔を真っ赤にした。

「…照れとうとか?」
「っ…キミが妙なことを言うからだ」
「妙とは何ね!あたしはただ思ったこと言っただけったい!」

それが悪いんだよ…純粋なところは彼女の良いところだが、同時に欠点でもある。
こちらの心など知るよしもないサファイアの鈍感さを、ルビーは呪った。

「とにかく!…あんたとセンリさんはやっぱりそっくりったいよ。素直じゃないところが特に…明日こそ電話するけんね」
「……もう寝る」

毛布を顔までかけてサファイアの反対方向を向き横になってしまった。嫌だ、とは言わなかったが…
どうして素直にわかったと言えんけんね。
全く、と思いながら、サファイアも重くなってきたまぶたを閉じて横になった。







次の朝…ぼそぼそとした話し声で目が覚めた。
何だと思い体を捻ってみれば、自分の場所から少し離れたところに、朝も早いというのにポケギアを手に誰かとしゃべっているルビーの姿…。

つないでいる会話が何だかたどたどしい。

誰に電話をしてるのかは気になったが、うとうとと意識がまどろんで、…すぐにまた目を閉じてしまった。







 /end/
◇ウチ設定小説。センルビの父子が大好きです。和解したあとは別に何もないはずなのに、中々お互いに優しくなれないって感じ希望。ぎくしゃく希望。
 サファイアはセンリに少しあこがれていてほしかったり。ルサはラブラブであってほしかったり。(結局ソレ)