(愛されるって、こんなに息苦しいことだったとか?)
あたしが「好き」と言えば、ルビーは「ボクもだよ」と返してくれる。
その時のはにかんだ笑みが、とてもきれいで好き。暖かい気持ちになれる。
ルビーはわかりやすい性格だ。
明るくて、物ははっきり言う。YesNoが明確で、美のためなら何だってする。面倒事・興味のない事には一切首を突っ込まない。あたしのことを「野蛮」といって蔑み、嫌味ったらしい時もある。
いっそ清々しい程に、アイツはわかりやすい。そんなルビーに本気で苛立つ時もあるが、結局あたしはそんな彼を好きになってしまった。そこを隠したり、否定する気はない。言い換えれば長所は短所であり、短所は長所なのだから。
けれども時々、ルビーは変わる。
語彙の少ないあたしにはそれが表現出来ない。けれども本能が告げるのだ、「下」にいる時のルビーは何処か「おかしい」と。
「あっ…… く、ふぅ、んんっ……!」
ルビーが買い揃えたソファの上で、サファイアはルビーの膝の上に座り、愛される。
啄むようなキスから、舌を絡めるキスへ。口腔が、お互いで満たされる。そして予め決められた手順のように、ルビーはそこへ手を伸ばす。サファイアはルビーに乗り、与えられる快楽に顎を反らせる。解放されたサファイアの秘所を指で慰める。上下に動きながら、サファイアが喜ぶ場所を知っているその指は確実に昂ぶらせていく。全身が熱を帯びていく。ルビーはその間何も言わないが、身体は顕著に反応する。目の前で乱れるサファイアに、興奮は隠せない。そそり立つ自身は秘所への挿入を今か今かと待ち望み、物欲しげに涎を垂らしている。十分に膨張したそれは悪戯に秘所をこすり、お互いの体液を混じらせる。ぬるぬると、緩急に摺り寄せてくる。決定打のない快楽に悶え、サファイアはいっそ挿れてくれれば、と思う。けれどもルビーはこの瞬間を、甚く気に入っている。体を小刻みに揺らして押しつけることで、まるで自分の欲望を感じてくれとでも言わんばかりに。
「サファイアのことが好きなんだ」
ルビーはぽつり、そう零す。
「サファイアのことが好きなんだ。キミもボクのことを好きだと言ってくれる。それがとても嬉しいんだ。でもキミはボクのものじゃない」
ルビーの紅色の瞳が潤み、くしゃりと歪んでいく。
「どうしたら、キミをボクで満たすことが出来る? 服、髪飾り、宝石、化粧……全てをボクが思うようにしても、満たされない。一体どうしたら、」
「あ、あたしは、あんたのものとよ」
「違う。まだ、ボクのものじゃない。キミの眼は、まだボク以外のものを映している、どうしたら」
そう言って、ルビーは泣く。しくしくと、酷く悲しそうに泣く。
まるで聞き分けの良い子どもが、競りあがる悲しみに耐えきれなくなって涙を零してしまったように。泣き喚くのではない、けれども子どもは切に訴える。
“ママ、どうしてもあの玩具が欲しいんだ――”
「こうしてキミの秘密基地もボクのもので満たして、キミを取り巻く環境もボクでいっぱいにしているのに、どうして、ボクのものにならないんだ、」
「ひっ……!」
何の脈拍もなく、ルビーはサファイアの腰を掴み自身を沈める。互いの液体が溢れているそこは、突然の侵入をも容易く受け入れる。あとはただ、内で肉と肉が擦れあうだけだ。止め処ない快楽と攻め、そして中で何度も放たれる欲に、意識が飛びそうにすらなる。
けれどもルビーはそれを許さない。耳元で優しく愛を囁き、サファイアを離さない。
「たくさん、たくさんキミの中に注ぎ込んでいるのに、中からも満たしていっているのに。あと何をすればいいの、キミとボクがここでずっと一緒に暮らせばいいのかな、周りの人たちからボクたちの存在を消して二人きりの世界になって、動くのをやめて食べるのもやめて眠るのもやめて、二人だけで見つめあってればいいのかな、好きっていう気持ちだけでいっぱいになれば、きっと息をするのも忘れちゃうし、そうしたらきっとキミの青い目は紅色になる、……」
体も心も犯される。言葉が言葉にならなくなり、思考が飛ぶ。愛する人から与えられるものに、心が追い付かない。確かにその瞬間、サファイアは眼前の男のことしか考えられなくなる。けれどもルビーはそれに気がつかない。目を伏せて雫を零しながら、サファイアを追い立てていく。ずるり、と引き抜かれると、秘所からは愛された形跡がどろどろと流れていった。ルビーは涙の残った瞳でそれを愛おしげに見つめ、サファイアの腹を撫でた。そこにあると仮定する、「何か」を愛でるように。
「ルビー……、泣かんで。あたしは、あたしは」
侵入者が出ていくことで、やっと一つ、息をつくことが出来た。
「あんたのことが、好き」
ルビーは少し目を見開けて、細めて、それから頬を僅かに赤らめる。
「ありがとう。ボクもだよ。好きだよ。好きだよ、サファイア。好きだよ」
その笑顔は、何ら「上」にいる時と変わりない。
彼の母、師匠、その他彼が愛し認めている人たちに向けられる笑顔と何ら変わりない。きれいなかおだ。ここに誰かがいたとしても、「優しい顔だ」と褒めただろう。それがあたしにも向けられる。純粋な好意。厭らしさや、残酷さなど欠片もない。少しはにかんだ表情は、年相応で、可愛らしささえ覗かせる。頬を伝う雫は透き通っている。
それなのにどうしてあたしはこんなににも体が震えている?
(今となっては、彼に愛されると、とても息苦しい。息の仕方がわからない。)