「もう…そういう関係ではないのだから…」
何処かはっきりとしない言い方ではあったが、それは明らかに自分を正面から否定する言葉だった。
強い衝撃を受けたわけではないが、それでもショックを全く受けないというわけではない。
しん、と静まり返った室内が、二人にとても強い重圧を与えていた。
「…ひどいな。…ナギ、まだあのことを怒っているのかい?」
「怒ってなどいない…」
どうだか。
確かにあの時彼女は“あなたのことは怒っていない、ただあなたとはもう付き合ってはいけない”…と言っただけだが。
明らかに避けはしない。
…お互いがジムリーダーであり、定期的に顔をあわせることは必然とおこってしまうからだ。
そこで皆のまとめ役であるナギがそういう態度をとってしまえば、統治が乱れてしまうことは否めないだろう。(とは言っても、今でも統治が良いとは言い難い状況だが)
現に彼女がミクリに今まで変わった素振りを見せたことはない。付き合っていた時も、別れた時も、当事者である自分でさえ気づかないほど。
でも、何処か遠くに感じるのだ。
いつも近くにいたはずの彼女を。…柔らかく微笑み慣れていない彼女が、自分の隣で必死に微笑もうと努力してくれたぎこちない笑顔が。
今はもう、何処にも見えない。
「ナギ…私の言い方が癪に障ったのなら謝ろう。私は決して、キミのリーダーシップが悪いと言っているんじゃない…
私にも、あなたが抱えている重責を負わせてほしいと言ったんだ」
男が好きな女性を支えたいと思うのは当然だろう?
例え、その想い人が自分を拒もうとしていようとしても。
「…はっきり言おう。」
ナギが背中を向けてポツリと言う。
「私は、あなたに頼りたくないんだ」
「…ナギ…」
「私は、あなたに自分から別離を申し出た。…その時から、私は決してあなたに頼らないで生きていこうと決めたんだ」
そうでないと…、といいかけてナギは口を噤んだ。
…そして。
「…これは、私のけじめなんだ」
はっきりと強い口調で言った。
ああ、また。また、ナギが遠く見える。
近くにいるはずのこの紫色の綺麗な髪ですら、手を伸ばしても届かない様に。
「…そうか。…すまなかった。忘れてくれ」
でも、私は今でもきみを… そう言おうとして、やめた。
…そんな言葉を送ったって、更に彼女に重みとさせてしまうだけだ。
「…書類、目を通しておいてくれ」
キィ、と扉を開けて外へ出た。
パタン、と軽い音がして完全に人の気配を感じなくなると、ナギはふらりと力をなくし近くのソファに崩れこんだ。
手に持っていた書類も、パラパラと床に散らばってしまった。
「………しないで、くれ…」
かすかに搾り出すような声。
誰にも聞き取られることなく、狭い部屋の中で無意味にナギの耳に消えていった。
優しく、しないでくれ。
…じゃないと、私はまた弱くなってしまう…。
ただでさえ、あなたの顔を見るだけで気持ちは苦しくなるのに。それを必死に押し殺して、役目を全うしようとしているのに。
―――精神的葛藤。
このままでは、いつか崩れ落ちる…
そんな不穏な予感が、ナギの胸の中でくすぶりはじめていた。
/end/
☆ミクナギはお互い思いあっているのにそれを交し合えないシリアスがいいなーと思っていたあの頃(今はギャグだ…w)