旅をする中で、僕は様々な人やポケモンに出会い広い世界というものを識っていった。
それは見聞を広め自分を成長させる良い機会でもあったが、同時に自分の弱さ、小ささを自身に認識させる機会でもあった。自分が未だ未熟な人間であることを知り、微塵も絶望しない人間などいないだろう。ましてや自分は自尊心の高い人間だった。知識は豊富だと自負していた。カノコに居た頃から自身が好ましい性格ではないことは自覚していたが、これほど弱く、苛立ちやすい性格だとは思わなかった。自尊心の高い人間程壁にぶつかると痛みが大きいと聞くが、まさにその通りだろう。
そんな僕を、幼馴染の少女は――ベルは、「はいはい」と受け流す時もあれば、しっかりと受け止めてくれる時もあった。後者の対応は、僕がどうしようもなく弱っている時だ。彼女はその見極めがすこぶる上手かった。
そして僕も――そんな弱い自分を見せられるのは、ベル以外に誰もいなかった。

僕とベルは、お互い独りで旅をしている身だ。けれども共にスタートし、共に同じルートを辿り、共に同じ目標を掲げているがために旅先で再会することは珍しいことではない。それはもう一人の幼馴染にも当てはまることだったが、彼女には共に旅をするパートナーがいたし、何より僕らよりも余程重い運命を背負って現在旅をしている。彼女は今、英雄と成るか否かを問われる旅をしているのだ。けれどもその物語はここでは割愛しておこう。特筆しておきたいのは、僕はブラックに友情以外の思いは一切ないということだけだ。
けれども、僕にとってのベルはそうではなかった。ベルにとっての僕も、そうではなかった。
いつからかお互いに友愛以上の思いを抱くようになり、手を繋ぐことすら昔とは違う意味を持つようになっていった。
ベルはその性格故に普段から僕に戯れつくことはあったが、僕が真剣な眼差しで見つめれば彼女とて頬を染めないわけにいかなかったし、僕が「二人きりになれる場所へ行きたい」と囁けば、その誘いを無邪気にかわすことが許されないことを知っていた。

昼間だというのに仄暗い部屋の中、彼女がベッドの上で肌を晒す。その豊かな体つきは僕の“外面”を剥がすのに容易く、齧り付くように彼女を押し倒した。反動でベルがシーツに埋もれ、トレードマークでもあるベレー帽は飛ぶように床に投げ出された。
ベルは自身の体つきを「太って見える」と悲観的に言うが、丸みを帯びたその体は女性らしくて好ましいと思う。しかしプラスでもありマイナスでもあるということは事実かもしれない。普段からその胸の膨らみは隠しきれず、あどけない顔とのギャップも相まって数多くの男を欲情させていることだろう。そして自分もその一人だ。目の前に曝け出された形良い膨らみはベッドの軋む音に比例して弛み、薔薇色の蕾はツンと上を向いていた。最初こそやおらに手を添えたが、指先が触れるとその皇かな肌は僕の手に吸い付くようにして馴染んだ。まるで上質な絹を堪能しているようだ。興奮が抑えられない。
「チェレン、ちゃん……っ」
ベルの瞳には涙が溜まっていた。可哀相に、と思った。普段頼りにしている存在の幼馴染が、今は自分を困惑させる存在と成り果てている。けれどもこの戯れを止める気はなかった。
乱暴に揉みしだけば、呼応するように胸の形が歪む。ベルの荒い息遣いや僕の手の悪戯に忙しなく揺れ誘うそれを、口にしたい、と率直に思った。無意識からか体をくねらせるベルを逃がすまいと、胸の蕾に矢庭に吸い付いた。
「っ、チェレンちゃん……っ!?」
幼馴染の奇行に、更に激しく動揺する声が聞こえた。同い年の少女だ、勿論妊娠などしているはずもない。母乳が出るはずもない。けれども吸い付くと何処か仄甘い気がした。咥内でしこる蕾を嘗め回し、突き放すように舌の戯れから解放する。それを何度も繰り返す――そのたびに唾液が線となって伸び、ベルは甘く喘いだ。体がぶるり、と震えた。
それが嫌悪か快楽か、今の僕にはそれを把握する余裕さえなかった。ただ自身を嘲った。

(今の僕はまるで赤子のようだ)

母親に甘えた記憶はこの脳にはない。ただ、甘えたことがないということはないだろう。今でこそ“ひねくれ者”“可愛い気がない”と言われる自分とて、幼少期は確かにあったのだから。母の愛を必要としない子などいない。ベルの腕の中にいると、安らぎを感じる。ただし安らぎだけではないのは十分理解っている。確かに、息は乱れていた。鼓動は早く、下半身に血が溜まっていくのを自覚する。鉄のように堅固であるはずの己が自尊心、羞恥心が溶かされていくのを感じる。
(これが好きという感情なのだろうか)
だとしたら相当歪んだものだと思う。この柔らかな感覚の中でしか、解放出来ないものならば。
そしてそれはきっとベルも同じなのだろう。
先程まで余程困惑した様子だったはずの彼女が、息を荒くしながら自分を見下ろしている。薔薇色の頬が可愛らしく彼女を彩っている。
「……チェレンちゃん、」
眼鏡を外した視力では、この距離であってもぼんやりとしか彼女の貌が把握出来ない。それでもベルは微笑んでいるように見えた。否、確かに微笑んでいた。
「あたしチェレンちゃんのこと好きだよ。だから嬉しい……」
“だから”の意味は一体何なのだろう?……。僕の頬に優しく添えられた手は、やはり熱っぽかった。
「チェレンちゃん、大丈夫だよ」
ベルは再度、僕をその腕に抱きしめる。それから精一杯に、慰めの言葉を僕に投げかけてくれる。その優しい言葉の雨は弱った体にはどれも心地よく、僕は目を閉じて彼女の体に沈む。自分を包み込む柔らかな体は傷を癒してくれた。
鬱陶しい熱を持て余しながら、僕は何故かいつもそこで眠りに落ちてしまうのだった。