「あと10分、だね」
腕の時計を見ながらルビーがそう呟いた。
その隣に並んでいたサファイアも、もうそんな時間なのかと目を丸くする。
「早いもんったいね」
「うん。でも時間には間に合いそうだ―――いい感じに雪も降ってきたし」
そう、幸か不幸か今宵は雪。
普通なら今日…大晦日は家でのんびりと、が常なのだが、そんな日に何故彼らが街中を歩いているかといえば―――
「でも何で今日に神社ば行くとね?明日なら初詣やけど」
「いいものをキミに見せようと思ってね」
それが何なのかは聞いても教えてくれなかったので(「ついてからのお楽しみだよ」)もう聞きはしないが。
「…というか、パーティーを抜け出してきて良かったとか?皆が心配するかもしれんとよ」
「大丈夫だよ。どうせ皆お酒を飲んで騒いでいるだけだから」
とかく人というものはイベントなど騒げる理由があればそれを名目にして騒ぎたいだけなのだから。
酒を飲んで呑まれる者などに大晦日の情緒は解らないだろう。
「それに早目に帰れば大丈夫だよ。…ほら着いた」
家からさほど離れていない場所にたっている小さな神社。
狛犬が二匹、“こんな時間に何の用だ”とでも言わんばかりに彼らをじろりと見た気がした。
「さあ言わんね。何のためにここば来たか」
「すぐに解るよ」
まだ口を割ろうとしないルビーに更にサファイアが文句を続けようとした時、し、と彼は彼女を留めた。
「…4、3、…」
2、1……、
“明けましておめでとうございます!”
そんな声が何処からか聞こえた気がした。
そしてひゅぅ…という微かな音がし、続けて眼前の闇空に広がる花火――――赤や青、暗闇に咲く色とりどりの花たち。
ぱぁ…ん、ぱん…
「花火ったい!」
「近くの遊園地であげてるんだ。これを見せようと思ってさ」
このことを言っていたのか。
確かに、自分はこんなものを見たことがなかったが――――。
ぱぁん、ぱぁんと模様も様々な花火がどんどん咲いては散っていく。
儚いそれらに、暫く目を奪われた。
「…サファイア、どうせだからお参りもしていかない?」
「今?明日…というか今日やけど…にまた来るんじゃなかったとか?」
確か父が、ルビーの両親も誘って初詣に行こうとか言っていた気がする。
「…ふふ、多分来れないよ」
「?まぁ良か。じゃあしてくったい」
花火も小さなものがぱんぱんと続いてうたれている、多分今に終わるだろう。
酒に酔いしれている人たちも目を覚ますかもしれない…心配させる前に帰らないと。
社の前に賽銭箱。
ほんの気持ちのお金を放り投げ、からからと鈴を鳴らした。
「……」
少しの静寂。花火の音も小さくなり、そして消えていった。
「…寒か」
サファイアがぽつりと呟いた。
確かに雪も未だに降るのを止めず、ちらほらと彼らの上から舞い降りてきている。
「…そうだね、帰ろうか」
サファイアより少し長めに手をあわせていたルビーが口を開いた。
ん、と言葉を返し、神社の階段を降りる。積もり始めていた足元の雪に足を取られない様に慎重に歩みを進めた。
「…あんた、結構長かったけど何の願い事ばしとったとか?」
「…こういうものは他人に話しちゃうと叶わないんだよ」
「え?そういうもんったいか?」
「まぁいいけど。…そうだね、今年もコンテストで優勝出来ますようにとか」
「あはは、あんたらしかね」
「でもそれ以上にね」
さく、さく、さく。
前を歩いていたルビーが振り向き、サファイアと目を合わせた。
「今年もキミと馬鹿なことでケンカ出来ますようにってね」
「……何ねそれ…」
「勿論他にも願ったよ。今年もキミがボクの側にいてくれますように、とか、キミがボクにたくさん好きだと言ってくれますように、とか、キミともっと愛しあえますように、とか」
後は何だったっけ、と指折りをしながらルビーは願い事の数々をあげていく。
「多すぎるとよ!しかもくだらんもんばかり…欲張りったいあんた」
「そう、ボク貪欲だから。まとめてしまえば、キミの全てが欲しいってことなんだけど」
ルビーの眸が悪戯っぽく細められた。
あっさりと言い放たれた言葉にサファイアも一瞬きょとんとしたが、すぐに意味を理解して頬を紅潮させる。
「ル、ルビー!」
「ま、最も、わざわざ神頼みにしなくたってキミに叶えてもらえればいい願い事だけどね。早速叶えられるのもあるよねぇ、“好きだとたくさん言ってもらう”とか」
「な…ッ い、言えるわけなかとやろ!!」
「だから願い事にしたのさ」
全く彼は恥ずかしいことをいう―――サファイアは再び歩き出したルビーの後に続いた。
「それで」
「?」
「キミは?願い事」
「あ… そ、そうったいね、…あたしももっと強くなりたい、とか…」
「とか?」
「………」
真っ赤になって俯いたサファイアを見て、ルビーも満足そうに微笑む。
「ありがとう」
「で、でもあたしはあんたみたく欲張りじゃなかとよ!」
「うん。ボクが望むことが多すぎるんだ」
肩をすくめ、ルビーが自嘲するかのように言う。
…その背中が、何処か小さく見えて。
「―――ルビー!」
「ん?」
「努力するったい!!」
「?」
「あ、あたしも、神様だけに頼まんと…努力するったい! あんたに…、…言えるよう…」
言葉通り耳まで真っ赤になり、サファイアが叫ぶように言う。
ルビーはいささか驚いたように目を見開けた。
「…ありがとう。―――サファイア、大好きだよ」
「…あたしも…… 大好き…ったい」
舞い散る雪の音にさえ負けそうな小さな声。
ルビーはサファイアを抱きしめ、寒風に吹かれ冷たくなった髪を愛しげにすいた。
そして、サファイアがまわした腕に力をこめる。
(…奪って欲しかよ)
“キミの全てが欲しいよ”
奪ってほしい。彼になら、――――。
そんな言葉が出せるわけがないけれど。好きだという言葉さえ出せない自分―――それでも彼は自分に微笑んでくれる。
…だから。
サファイアがルビーの胸の中で何かを呟いたようだったが、それは誰の耳にも届くことなく風の中に消えていった。
「…サファイア、今年もよろしくお願いします」
雪は一向にやむ気配を見せず、何処までも限りなく。
静寂の中に抱き合い佇む二人をまるで祝福するかのように白く染め上げていった。
/end/
推敲しないとこんなもんです。(しろよ)おそまつさまでした…!今年初めてのSS。一日で仕上げました!今年の目標は「ルビーとサファイア、双方を幸せにする」なので^^
後になりましたが。…明けましておめでとうございます、今年もどうぞL.G.をよろしくお願いいたしますっ(^^)
2005/01/01/杞咲 凪