父さん!…父さん!どうして?どうして!ボクのこと嫌いになったの…!?





「…!」

カッと目を見開いた。
視界はまだ暗闇、夜はまだ明けていない。

何処かで道を間違えたのか、ルビーは今日町につくことが出来ず不本意ながら野宿していた。
少しでも汚れないようにと常備していた大きな布を草むらに引き、ポケモンたちと眠りについたのだが…
疲れを癒すための睡眠が、最近は一番の疲れとなりつつあった。




嫌な夢。…あのマグマ団の男に幻影を見せられてからというもの、“一番嫌な思い出”が夢に出ることが多くなった。

自分がまだ物事の判別もつかなかったつかなかった幼い頃。
戦闘狂(バトルマニア)の父に強要され自分はバトルばかりをしていて…あの時は、本当に父の顔色ばかりを伺っていた。
バトルやポケモンの体調・性格を読み取る勉強をし、敬語を学び、…全てに必死だった。

それも全て、父に褒められたい一心から。
自分が頑張れば、よく頑張ったな、と笑いかけてもらえると思っていた。

…今思えば、とても滑稽だ。


(どんだけ頑張っても、父さんはボクを褒めることなんてなかったな)


自分がコンテストに目覚めてからは更にだった。毎日意見が衝突し、勢いあまって殴られることも多々だった。
間に母が入り、それが本格的なケンカにまで発展することはなかったが…


日に日に父への反発心は大きくなり、そしてついに11歳の誕生日を境に家出を決行した―――


(本当に…父さんに褒められたいなんて馬鹿なことを思ってたもんだな)


お父さんはルビーのことが大好きだからああやってきつくあたっちゃうのよ。わかってあげてね。

母にそう言われても子供心には全く理解出来なかった。
優しい言葉をかけてもらったことがない。頭を撫でてもらったことがない。抱きしめてもらったことがない。

よく行く公園では、そんなことを当たり前のようにする父子がたくさんいたから余計に。


(…愛されたかったのかな)

寂しかったのかもしれない。母は優しかったが、父に「甘やかすな」と言われているため触れ合ったことはあまりない。

…孤独を感じていたのかもしれない。


ふと近くを見れば、安心しきった顔で眠るZUZUの姿。
寝返りを打ったのか、落ちかけていた毛布をちゃんとかけなおしてやった。


ポケモンたちの存在は自分を癒してくれるが、それでも今、一番恋しいのは――――



「…あれ?何しとると?」

まるでこの暗闇の中をジョギングをしていたかのように目の前で軽く足踏みをしているのは、ライバルの少女。
その両脇にはちゃんとポケモンたちもついていた。

「…キミ」
「あんた、外で寝るの嫌っとったのに…今日はここで野宿?何の風の吹き回しね。心ば入れ替えたと?」

何処か皮肉めいた言葉だった。…まぁ、いつも自分につっかかってくる彼女らしい。
挑発にのることなく、ルビーはふう、と一息をついた。

「キミは何でこんな夜に?」
「あたしは早くジムば制覇する。少しでも早く先へと進まんといけん」
「ふーん…」
「何ねそのやる気のない言葉。…だけん、そろそろ寝るところば探そうかと思ってたとよ」

ポケモンたちを全部ボールへ戻し、彼女はウェストポーチからするすると長い蔦を取り出した。
そして近くの適当な太さの木を見つけると、や、と掛け声とともに蔦を枝に絡ませる。…どうやら、今日の寝床はそこにしたらしい。

「あたしはここで寝るけん、…くれぐれも近寄らんといてよ」
「…ねぇ」

聞こえるかな、と自分でも思った程度の大きさの声だった。
しかし、地獄耳である彼女にはしっかり聞こえていたらしい。幹にかけていた足を戻し、何ね?と自分に振り返った。
こいこい、と仕草で手を上下させると、彼女は素直にも自分に近寄ってきた。

「何ね一体?」
「………」

説明するのが面倒だったので、…そのまま無言で彼女に抱きついた。
自分の前でひざをついたサファイアは一瞬硬直し、そして声にならない悲鳴(とはいっても、夜中だからその辺はわきまえているが)をあげた。

「ななななななななななななな何ばしよっと!!??離れて!」

そう言いながらも、自分を引き剥がそうとはしなかった。動揺していているのか、動転してそこまで気がまわらないからかは知らないが。
両手をわたわたと振り回し、…仕草がとても可愛い。

「何もしやしないから…」
「な、何もって今現にこうやって…!」
「少しの間だけ、…こうさせて…」
「…………」

う〜、としばらく唸っていたが、そのうちサファイアは大人しくルビーに抱きつかれていた。
相変わらず埃っぽかったが、体温の高い、暖かい体だった。最もとても細く、もう少し力をいれたら壊れてしまうのではないかと思ったが―――。
しばらく彼女は黙っていたが、ふっと口を開いた。

「…寂しかと?」
「…そうかもしれないね。…とても暗くて、寒い…」
「…わかるとよ。あたしも暗くて寒いのは苦手ったい。風も冷たいし、何だか寂しくなると」

サファイアも足を崩し、ゆっくりと…ルビーの背に腕をまわした。(かなり戸惑いながら、だったが)
そして母親が子供にするかのように、ぽんぽんと背を軽く叩く。

「あたしがまだ小さかった頃、そういうことがよくあったと。まだポケモンを扱わせてもらえなくて、でも一人で寝るのが怖くて」
「……」
「そういう時、よく父ちゃんにこうやって抱きしめてもらったたい。今のあんたみたいに」

その言葉を聞いて、少しだけ彼女の父親に嫉妬した。すぐにその気持ちは消えたが…

「んで、それから父ちゃんに添い寝してもらったっけ…」
「…まるっきり子供だね」
「だ、だからあたしがちっさい頃の話って言っとるやろ!?それに、今のあんたの方がまるで子供やなか!」

何か反論があると?と彼女は普段のケンカ腰な言い方をした。
しかしルビーはといえばそれに応答することなく、サファイアの体を抱きしめたまま微小たりとも動かない。

「…聞いてると?」

もしかして寝てしまったのだろうか?そう思い、顔を覗き込もうとしたその時―――
いきなりサファイアの体勢が崩れた。ぐらりと視界が揺れ、何のことだか理解できず小さな悲鳴をあげその場に倒れるようにして横たわる。
しばらくして、ルビーが自分を横に寝かせたのだと気づいた。

「何を…」
「…それでいいから」
「は…?」
「ボクが子供でいいから、今日だけは添い寝して?」
「な…今日のあんた、どっかおかしいとよ?」

そう言ってもルビーはもはや何の反応を示すこともなくなった。
…この体勢では動けそうもない。無理に振りほどくのも可哀想だし…しかも自分を抱きしめている彼の力、…意外に強い。
軟弱そうに見えて、やはり男なのだ、と再確認した。

「〜〜〜〜〜〜〜〜今日だけとよ!」

しぶしぶとした彼女の声が聞こえてきた。
男の人と寝るなんて考えられんと。以前自分にそう言ったのに、お人よしというか、率直と言うか…初めて会った時と何も変わらない。
そして…

(…暖かい)

人の体温を感じたのは久々だった。
…そして、触れ合っているところの近くから彼女の動悸が聞こえてきた。妙に早く脈打つそれに、軽く笑みをこぼす。


さっきまでの不安感が薄れていく、そんな気がした。



正直言えば彼女に弱みを見せるのは癪だが、…まぁ、たまにはいいか。こうやって彼女に触れられたし。
薄れ掛けてきた意識の中で、そんなことを思った。


どうせ、明日からはまたライバル同士―――ケンカばっかりなんだから。








 /end/
◇捏造してすみません。何でルビがバトルを嫌いになったのかはいろいろと私にも考えがあるんですが、やはりセンリにほめられたい一心だったんじゃないかと…。 
 でもセンリさんって中々褒めなさそうだし、それでいろいろとこじれちゃって…みたいな。
 センリさんなんだか悪いもの扱いっぽいですが、私センリさん大好きですよ^^; ルビはちょっと強引であってほしいです。