昔、遠い昔。
アタシのことを、「賢い女だ」と言った人がいた。
―――教えて欲しいわ。
アタシの何処が、一体賢い女なのか。
「へぇー…イエローさんはそういうわけで男装をしていたのですか」
仮面の男事件も終幕を迎え、穏やかな日々が戻りつつあったジョウト地方、ヨシノシティ。
ここの新しくオープンしたカフェで、三人の女トレーナーたちがつかの間の麗らかな午後を楽しんでいた。
「はい…旅が終わった後も何だかレッドさんに言いにくくて」
「何だかロマンチックですねぇ…助けてもらった縁からその人に憧れて、そしてその人を探す旅をして…素敵です」
「アラ、これからクリスだってその仲間入りじゃない?再び旅に出てしまった好きな人―――あなたは寂しい思いをしながら待つのよ♪」
「べ、別に私はゴールドを好きだなんて…っ」
勢いでそこまで言ってしまってから、クリスはしまった、と口を手でふさいだ。
「やっぱりクリスさん、ゴールドさんのことが好きなんですね!」
「ち、違いますっ」
「アラ、顔は正直みたいよクリス?真っ赤♪」
「じゃ、じゃあブルーさんには好きな人とかいないんですか!?」
クリスがせめもの仕返し、とでも言わんばかりに話題をブルーに向ける。
そんなことに動じるブルーではなかったが、クリスのその言葉に、ふっと何かが頭を過ぎっていった。
「…いる、わよ」
まさかいる、だなんて言うと思わなかったブルーに、クリスとイエローは心底意外そうに目を見張る。
「ええっ初耳です!誰なんですか!?」
「グリーンさんですか?」
「まさか。からかう分には面白いけれど」
「じゃあシルバーさん?」
「弟としてはとても大切よ」
「あ…じゃあ」
クリスとイエローが互いに目を見合う。
「?…ああ、安心なさい、レッドでもゴールドでもないわよ」
じゃあ…と考えはじめた後輩たちを残し、ブルーは席を立った。
「あっブルーさんずるいですよ!」
「ボクたちだけからかって…っ」
「オホホ。…あなたたちはその恋、大切になさい」
アナタたちの恋、応援するわ、とブルーが勘定書を持ってカウンターの方へと歩いていった。
後ろから、
「でもブルーさんなら、どんな男の人だって振り向いてくれるんでしょうね」
などという、羨望の声を聞いて。
(そうだったら、良かったのにね)
アタシがどんな男だって振り向かせられるほどの、可愛い女ならば。好きな男を振り向かせられるだけの知恵があったなら。
こんな思いはしないですんだかもしれないのに。
誰がアタシを賢い女だと言ったのか…
「馬鹿なのよ、アタシは」
感情は行き場を無くし、その上昇華することも出来ない。…そんな愚かな恋をして。
「…どうしようもない、馬鹿なのよ」
気づくのも遅すぎて、アタシはもうここから動けない。彼もアタシの思いには気づかない。
アタシはこのまま一生、この思いを焦がして生きていくのだわ。
それが、遅すぎたアタシの告白の罪。
/end/
☆相手はまあ…ね。結構このカプリも好きかもーかもー