昔、こんなことを言った人がいたんだよ。






「人間は元々、頭を2つ、腕を4つ、足を4つ合計8つもったモノだったんだって。…男女の性なんて勿論なかった。
でも、ある時神の怒りに触れてソレが二つに分かされた。

…それによって人間は男女にわかれ、そしてその時から、男女はお互いに自分の半身を捜し求めて愛し合うようになったんだって。
アンドロギュノスの神話っていうんだけれどね」

「…へえ。」

倫理など彼女には興味のなかったことだろうか。
あくまで世界にたくさんある寓話の中の1つとしか受け止めていないかのように、彼女はそっけなくそう呟いた。

「へえ、って…それだけかい?」
「…そうなんかー、って思いはあったけど別にそれ以外は何とも思わんとよ」
「これだからキミは…!とっても神秘的でかつBeautiful、Wonderfulな話だとは思わなのかい!」

全くキミには感性がない、とルビーが言うと、サファイアが何ね、と喰らいついてくる。
そうなってしまうともう言い合いは尽きず。

一通り罵声を吐きあった所で、ルビーがふう、とサファイアの隣に倒れこんだ。

「…あのね。ボクはキミと罵り合うためにこんな話を始めたわけじゃないの」
「ケンカを売ったんはあんたったい!」
「ハイハイゴメンナサイ。」

気持ちがこもってなか、とサファイアが抗議する。
…と、ルビーがサファイアをその赤い目でじっと見つめた。

「な、何ね」
「…だから、ボクの半身はキミなんだろうなあ、と思って」

グイ、とサファイアの細い体を引き寄せて、すっぽりと包み込んでしまった。
そして少々強めに抱きしめる。

「ちょっと…!」
「…お帰り、ボクの半身。」
「ちょっと、勝手に決めんといて!あたしはあたしであって、あんたのもんじゃ…!」
「そうだね。ボクがキミの半身だってこともあり得るしね。でも結局は1つなんだから一緒のことだよ」
「…むー…?」

頭が混乱したようだ。
必死で考える彼女が可愛くて、更に強く抱きしめた。
首元に口を下ろし、静かに舌を這わせて…ん、とサファイアが甘い声を漏らす。
そのまま彼女の細い腕とボクの腕が絡みあって、自然と二人はベッドに倒れこんだ。

それからは互いに何も言うことなく、ボクはただ彼女の体を貪った。





…ボクがサファイアと交わりたい、と思うこの思いは、果たして自分の体を取り戻したい、という思いなのか。
尽きない欲望も、そのためなのか。

…よくわからない。
ボクに哲学はあわないみたいだ。



―――偉大なる先の哲学者。
あなたの言葉が真であれ虚であれ、ボクには関係のないことです。








…どっちにしても、彼女はボクのものだから。


/end/
◇ずっと昔倫理のテストで出たのです…どうしても彼らで書きたかったの。