「バクたろう!」

ゴールドの声に反応し、ポケモン…バクフーンが行く手を阻む敵に攻撃をしかける。
バクフーンはルビーのラグラージ・ZUZUと同じく、所謂“御三家”と呼ばれるボケモンではあるが、その力の差は歴然だった。
バクフーンから繰り出される圧倒的な火力に、ルビーは目を見張った。

「Fantastic…見たことのない程の力強い攻撃です。流石先輩ですね」
「へ、そうだろそうだろ」
褒められて悪い気はしない。

「ですが!勿体ないッ!」

「はぁ?」
「見事な毛並みなのに、ボロボロじゃないですかッ!磨けば光りますよ、このバクフーン!」
今にもバクフーンの毛を梳きそうな勢いで、ルビーが食いつく。
バトルの最中だというのになんと暢気なことやら――流石、 “オシャレ小僧”の名はダテではなさそうだ。
「あのなぁ…!今ァんなこと言ってる場合じゃ…」
「はい、なさそうですね」

目にも留まらぬ早さ、鮮やかさでルビーは腰から1つのボールを取り出し放り投げた――

「時の流れは移り行けども、変わらぬその身の逞しさよ」

まばゆき閃光が辺りを包み、そこから姿が形づくられる――

「身につけたるは怒りの激流、ポケモン・ラグラージ!名前はZUZU!今ここに!」

滑らかな口上…ラグラージは地に着くと同時に、濁流を放った。
勢い良く放たれたそれに、対峙していたポケモンたちが抵抗する間もなく流されて行く。

「そのバクフーンほどの威力はまだありませんが」

にこり、と微笑み。

「いずれは追いつきますよ。ボクも図鑑所有者のはしくれですから」

――成程、実力はそれ相応にあるわけか。面白ぇ。
ただのコンテスト狂かと思っていたが、図鑑を手にするだけのことはあるってか。
カントーやジョウトにまで聞こえてきたあのホウエン大騒動の解決者らしいし、何処ぞのジムリーダーの息子とも聞いているし。
バクフーンの隣に並んだラグラージも、中々の貫禄を持っている。

「バクたろう!!」
「ZUZU!」

並んだ2匹から放たれた火と水が渦巻き、敵へと猛進していく。
その威力はかなりのものであったが、わずかに軌道がずれた。数体のポケモンがそれを避け、反撃を仕掛けてくる。
放たれた毒針を避けつつ、攻撃によってえぐられた地面に足元をとられぬよう体勢を立て直した。

「ちっとズレたか」
「ええ…それにしても、何だか落ち着かない様子に見えますが…タッグバトルは不慣れですか?」
「ンだと?この俺様を捕まえて不慣れたァ言ってくれるじゃねえか」
「いえ。それとも、タッグバトルの相手がボクだと不満なのかなと。誰か他にいらっしゃるのですか?最高の相手だと思える好騎手が」
「……」

それは疑問系ではあったが、何処か確信を得たような言葉だった。
ふっと頭に思い浮かぶ、かつて凍りついた湖の前…霧深き場所で、悪に立ち向かいタッグバトルをしたことを。
そしてその相手は現在、物さえ言わぬ硬き存在になってしまっていることを。

「…チッ…イラつくぜ、お前のその顔」
「はい、よく言われます」

ルビーはゴールドの方を向くこともなく、涼しげにさらりと答える。
今まで周りに居なかったタイプの人間だ。結構イラつくぜ、このガキ。“アイツ”の方が何倍もマシだ。

「まぁ、先輩がボクとタッグバトルすることが嫌でも迷惑でも、はっきり言ってしまえばそんなことどうでもいいです」
「はぁ?」
「ボクはボクの役目を全うするだけ。…愛する人をもう傷つけさせない…この手で護るだけですから」

おどけてばかりだったルビーの横顔が、一瞬尖った。
…へぇ、そんな顔も出来るんじゃねえか。
彼にも何か思う所があるのだろう。攻撃の爆風が吹くたびにぎゅっと帽子を押さえる所…鋭い眼差し。

「んじゃまあ、さっさと片付けるか」
「?」
「愛する人とやらの話を聞かせてもらおうじゃねーか。面白くなりそうだ」
「…ふふ、ボクの自慢話は長いですよ?」
「ケッ上等だってんだ。その代わり俺の話も聞けよ」


キューを構えなおす。ボールを構える。
二人の威圧に、対峙している敵ポケモンたちが一瞬ひるみ、二の足を踏んだ。



今はまだ、会ったばかりの“同じ図鑑所有者である”という認識しかないが。
彼はいずれ、背を任せられる相手になるかもしれない。